第27話 別行動だけど、心は一つです。
二人で街を守る。でも、もちろん二人きりで戦うわけじゃない。
魔物は数が多く、聖女の魔法が使える私でも食い止めるのは難しい。そのために、兵士など戦える人に協力してもらう必要があった。
幸い、スケルトンやゾンビはギフトなしの大人でも十分に倒せる。死体に魂が憑依しているタイプの魔物は痛みに強く、なかなか倒せないことで有名だけど、その分動きが遅く攻撃力が低いのだ。街道沿いの男性のようにうっかり囲まれたりしなければ、大丈夫。
ただアンデットはスタミナが実質無限で疲れしらずなのだ。対して、人間は動けば疲れる。
アンデットの軍勢を相手しようと思ったら、少なくとも同数の兵士が必要になる。
(私も戦うとはいえ五十人は欲しいよね)
どれだけ集められるか。それはアレンの働きにかかっている。私が兵士の詰め所に顔を出したりすれば大騒ぎになってそれどころではなくなるからね。
「俺はカールのところに行って話を通してくるよ」
屋根裏から一階に降りて剣を携えたアレンは、真剣な顔でそう言った。少し見ない間に、随分大人になったなー。背は会うたびにぐんぐん伸びて、顔付きも大人びた。まだ十五歳だから、これからもっと大きくなるだろう。
決意を固めた彼の行動は早い。移動する時間も惜しい、とばかりに駆け出した彼の大きな背中に手を伸ばしかけて、すぐ降ろした。
私はもう、アレンと一緒に成長することはない。
彼の姿を見て、そのことを思い知らされた。
(死霊の身体って疲れないし、眠くならないし、ふわふわ浮いてるだけでらくらく~って思ってたのにな)
彼の隣に並び立つには、不相応だよね。
だめだ、森を出てからネガティブなことばかり浮かんでくる。
こんなの私じゃない。くよくよ落ち込んでいる場合ではないのだ。
(進化すれば大きくなるし、実質成長だよね!?)
人間っぽい姿になるのも不可能じゃないはず!
そう己を鼓舞して、無理やり動き出す。死霊は肉体がない分、精神の影響を受けやすいから心が沈んでいるとどうにも動きが鈍い。元気に行こう!
(私は進軍を少しでも遅らせる!)
おーし、頑張るぞ。
だって、アレンが頑張ってるからね!
ただ、もう少し別れを惜しんでくれても良かったんじゃないかな!? 行動に移すのが早すぎて、びっくりしちゃったよ。
まあ貴族ならともかく、平民など労働者階級の死亡率は結構高い。特に戦争孤児だった私たちは、人の死なんて身近なものだった。とはいえ、やはり親交のある人が亡くなるのは悲しいものだけど、折り合いの付け方は自然と学ぶのだ。
(肉体はともかく、こうしてぴんぴんしてるからね。あまり泣かれても困るからいいんだけど)
少し不服だ。
でも、ちゃんと強がらせてあげるのも婚約者の務めだよね!
私はアレンを見送って、反対方向に背を向けた。目指すは街道だ。
壁をすり抜けながら、来た道を引き返していく。太陽は傾き始めて、直に夕日へと変わるだろう。
夜はアンデットが強くなる、というのは迷信であるが、真実でもある。陽が差していようと暗闇だろうと、魔物の動きや強さは変わらない。そう、一切変わらないのだ。しかし、視界に頼って行動する人間は、夜になると能力が著しく低下する。
だから、相対的にアンデットが有利になるのだ。できれば陽が沈みきるまでには決着を付けたい。
(今の魔力量からすると……ホーリーレイだけなら結構余裕があるかな。聖域や結界は、あまり広範囲に広げるとすぐ魔力なくなっちゃう)
生前はいくら使ってもなくならないくらい魔力があったのに、今では節約を考えないといけない。
敵がスケルトンだけならともかく……。
(うーん、五十どころじゃなかったかも?)
再び街道に戻って来た私は、少し高いところまで飛んで、閉口した。
ごめんアレン。百くらいいるかも。
途中で合流したのか、さっきの私が焦りすぎて把握していなかったのか、認識よりも遥かに多い軍勢だった。だが、これでもファンゲイルの総戦力からしたらほんの一部なのだろう。
(ゴズもメズも、門番スケルトンもいない。これくらい退けられなかったら王国を守り切るなんて到底不可能だよね)
敵の内訳はこんな感じだ。
前衛:スケルトン(E)約三十体、スケルトンソルジャー(E+)約二十体、ゾンビ(E)約二十体。
後衛:メイジスケルトン(E+)約十体、スケルトンアーチャー(E+)約十体。
指揮:エアアーマー(D)五体。
(エアアーマーは聖女時代に一度だけ戦ったことあるけど、鎧に守られてホーリーレイの効き目が薄いんだよね……かといって兵士が倒せるかも怪しいし)
スケルトン系はなんとかなると思う。エアアーマーはレイスと同じDランクで、より戦闘に特化した魔物だ。
あの時はたしか、レイニーさんがトドメを刺したんだよね。『枢機卿』は攻撃寄りのギフトだから。
(エアアーマーを倒すために、スケルトン系はなるべく魔力を使わない方向で!)
アレン、兵士の皆さん、一緒に頑張ろう!
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