第20話 出口だ!
魂の収集に関しては、それほど大変な作業ではない。
キツネビからゴーストになるために必要な魂は百個だった。ファンゲイルの話では、次に必要なのは千個らしい。実に十倍の個数だけど、不死の森にはたくさんのアンデットがいるから、時間さえあれば大丈夫だ。
「カタカタ」
やっぱり一番多いのはスケルトンで、ごくたまに剣を持ったスケルトンソルジャーがいる。
どちらもホーリーレイを数発撃ち込んでソウルドレインという鉄板戦術で倒せる。ソルジャーの方は『魂斬り』というソウルクラッシュの上位版で攻撃してくるので当たると致命傷になりかねないけど、注意して戦えば問題ない。
スケルトンソルジャーはE+の魔物だからゴーストよりランクは高いんだけど、動きはスケルトンとそう変わらないね。オニビの頃から倒していた相手なので、慣れたものだ。
(スケルトンソルジャーの魂ももっと美味しかったらなー)
今までの傾向的に、死霊系は美味しくてスケルトンはまずい。
味覚で感じているというよりは、魂を取り込んで全身に浸透する時の感覚が違うのだ。
(ヒトダマの養殖場が見つかれば魂も集めやすいんだけどな~)
ファンゲイルたちの口ぶりだと複数あるような話だった。あいにくどこにあるのか分からないし、最初の洞窟に戻ると遠回りになってしまう。
なので、しばらくは王国の方向へ進みながら出会った敵を倒していく方針だ。
(レベルは……25か。レベルも上がるし、お腹も満たされるし、一石二鳥だね!)
味わいが一番良いのはゴーストだ。
でも、ヒトダマはヒトダマで美味しいの。小さいからつるっと食べれて、喉越しが良いんだよね。
ゴーストがジューシーなお肉だとしたら、ヒトダマはフルーツだ。どっちも美味しい。魂美食家の私が言うんだから間違いない!
ちなみにスケルトンは硬いパンって感じ。
(お、オニビだ!)
なにげに初めて見たかも。
ゴーストとヒトダマはたまにぷかぷか浮いてるんだけど、どうしてかオニビやキツネビは見ない。
ヒトダマから順に進化する以外に直接ゴーストが生まれるパターンもあるみたいだからね。ていうか、むしろそっちの方が多いんだと思う。だって、ゴーストが攻撃してきたこと一度もないもん。
(ソウルドレイン)
オニビは所詮格下。一瞬で方が付いた。味はヒトダマに近いかなー。炎だからか、ちょっと暖かい気がする。
それにしても、この森は本当に景色が変わらない。
傾斜もほとんどなくて、似たような木が延々と続くのみだ。常に瘴気のような靄が掛かっているから雑草も生えず、むき出しの地面には時々骨が落ちている。
こんなところにいると気分まで落ち込んでくるね。
薄暗いけど、空を見上げればなんとなく時間は分かる。砦を出たのは夜で今は昼ぐらいかな。半日くらいは移動しっぱなしだ。睡眠が必要ない身体で良かった。
すれ違うスケルトンやゴーストをぱくぱく食べて、先を急ぐ。今のところ追手は来ていない。でも、悠長に休憩していられる状況でもないだろう。
だんだんと靄が薄くなっていき、視界が開けた。
(出口だ!)
ほとんど寄り道もせず突っ切ってきたからか、思ったより早く森を抜けることができた。
うっかり反対側に出てしまった、みたいなミスを犯していなければ、王都や村々を結ぶ街道がすぐ近くにあるはずだ。
結界を張る時に街道までは出てくるから私でも道が分かる。この六年間で何度も通った道だ。
私がいなくてもレイニーや他の神官が代わりの結界を展開していると思うんだけど、見当たらないな。不死の森沿いの街道はさほど利用者も多くない割に魔物の出没が多いので、放置することにしたのかもしれない。私ほど広範囲に結界を行きわたらせることはできないから局所的に防衛することにしたんだろう。
(街道だ! やっぱりここにも結界がない)
不死の森から溢れ出したスケルトンが、普通に街道を闊歩している。
これでは行商人が困っちゃうよね。それに、このまま徘徊したら街や村に辿り着くかもしれない。
(ホーリーレイ)
スケルトンは成人男性ならさほど苦労せず倒せる魔物ではあるけど……それでも数が集まれば危険であることは間違いない。
考え事をしながらも、スケルトンを倒す作業はやめない。
たぶん王都はこっちで合っていたと思う。王都にはレイニーさんがいるからファンゲイルの情報を伝えないと。孤児院にも寄って、アレンたちを助けて……。
「だ、だれか! 助けてくれ!」
その時、男性の声が聞こえた。
条件反射ですっ飛んでいく。この身体は慣性は働かないから、方向転換も自由自在だ。
少し移動すると、スケルトン二体に囲まれる男性の姿が見えた。隣には馬が倒れていて、商人風の服装だ。荷物は少ないようだけど、王都に向かうところだったのだろうか。
「あはは!」
(今助けるよ!)
私が追いついた時には、既にソウルクラッシュが振り下ろされるところだった。力任せに落とされる骨の拳は、物理的にも痛い。男性の前に滑り込んで、聖結界を発動、拳を防いだ。
(聖域。ホーリーレイ)
周囲が聖なる空気で包まれ、スケルトンの動きが鈍る。動きを止めた隙にホーリーレイを二体に打ち込み、魂を吸いあげた。
「え? え?」
男性は私を見てぽかんと口を開けている。
うん、私ゴーストだもんね。そんなのに守られたら、そりゃびっくりするわ。
「あは!」
相変わらず喋れないので、手を上げてにこやかに挨拶をしておく。
ていうか、死んでから人間と会うの初めてじゃない!?
「ひいぃ」
尻餅をついたまま、器用に後退していった。ちょっとショック。
聖女スマイルから逃げた失礼な男の誤解を解くため近づこうとしたとき、どたどたと数人の足音が聞こえた。
「大丈夫ですか!? 今助けます!」
(あれは見習い神官の子だ! 後ろにも知ってる顔が何人かいるね)
ていうことは、レイニーさんもいるかもしれない!
思ったより早く出会えたね。順調かも!
「あははー!」
うきうきで手を上げたけど、見習い神官ちゃんの顔は険しい。
短杖を私に向けて、聖属性の魔力を集中させた。
「邪悪なゴースト! その人から離れなさい!」
(あ、今の私、ギフテッド教の敵だった)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます