第14話 ようやく魔王とご対面
天井の高さを超える時に少しだけ身体が重たくなる感覚があったけど、問題なく二階に上がることができた。結界というほど強力ではないものの、無理に入ろうとしなければ通れない空間だ。
二階は一階とは打って変わり、閑散としていた。通路を歩く魔物は一匹もいない。
すぐ目の前に上り階段があったので、三階の様子も見てみる。しかし三階は外を警戒したり弓を構えるための屋上階になっていて、関係なかった。
二階に戻り、探索を再開する。
(下っ端は入っちゃいけない場所なのかなー)
一階とほぼ同じ構造とは思えないほど広く感じる。
いくつもある部屋は扉が閉められていたので、死霊の身体を利用して侵入する。すり抜けるのは便利だ。
どの部屋も魔物の気配はない。よく分からない道具や書物が並んでいて、実験施設のようにも見える。
(うへ、骨がたくさん置いてある)
ある部屋には、大小様々な骨が無造作に積まれていた。
最近は魂の有無が感覚的に分かるようになってきたので、この骨がスケルトンでないことは分かる。スケルトンを作るために使うのかな。
魔王とは魔物を生み出す者の総称だから、ファンゲイルも魔物を作ることができるんだろう。ヒトダマを作っていたみたいだし。
「ファンゲイル様……」
「ああ……それで……」
誰もいない廊下を彷徨っていると、うっすらと話し声が聞こえてきた。
ひと際大きな扉の前に行って、耳を澄ませる。耳なんてないけど。
「じゃあ……」
「そうか……」
扉に遮られて、全然聞こえない。
中がどういう構造になっているか分からないけど、入るしかないようだ。どうせならファンゲイルの姿も見たい。
正面から突入するのはリスクが高いと思うので、隣あった部屋に一度入り横の壁をすり抜けていくことにする。
(バレませんように)
バレたら壁を抜けて外に飛び出そう。ゴーストだから落ちて死ぬということもない。
そーっと壁に頭を付けて、ひょっこり顔を出した。よし、偶然燭台の裏に出られた。
中は広間になっていて、扉の反対側にはいかにもといった感じの玉座がある。ここからは陰になって見えないけど、そこにファンゲイルが座っているのだろう。
部屋の中心、カーペットが敷かれた場所にはゴズメズが跪き、言葉を交わしている。
私は大きな燭台の裏で息を潜める。
「君たちのおかげで兵士がだいぶ増えてきたよ」
「光栄です」
「今はガシャドクロたちがいないからね。君たちが頼りだ。まあ、聖女のいないあの国なんて、スケルトンソルジャーでも十分だね。やっとだ。やっとアレを手に入れられる。王国にあると知ってから十年くらい経ったかな。ああ、聖女さえいなければもっと早く」
ファンゲイルは少年のような声で憎々し気に私のことを語る。ひい、恨まれてるよ。
魔王が王国にある何かを求めている? うーん、今の話だけじゃよくわからないな。
「そ、それでは儂らも幹部に……!」
「ゴズ! やめろ」
「あはっ、君たちまだBランクでしょ? ヒトダマの回収をしたぐらいで調子に乗りすぎかな」
「も、申し訳ありません!」
「君たちがアンデットになるというなら、考えなくもないよ。ふふ、半獣半人の死体には興味があったんだ」
明るい口調とは裏腹にゾッとするような冷たさが潜んでいる。
ゴズメズはBランクなんだね。そりゃ強いわけだ。でも、ファンゲイルの幹部にはもっと強い魔物がいると。
言外に殺してアンデットにするぞ、と脅されたゴズは震えあがって再度謝った。
「ヒトダマの回収といえば、東の養殖場で妙なゴーストと遭遇いたしました」
私の話だ!
メズが淡々と説明していく。姿を見て機敏に逃げ出したゴーストがいたこと。障害物を利用して器用に逃げ、あまつさえ結界を使用して見せたこと。
「ゴーストが? ふーん、聞いたことないね」
「ファンゲイル様でもご存じありませんか」
「アンデットについては誰よりも詳しい自信があるんだけどね。残念ながら僕も知らないよ」
まさか聖女がヒトダマになってるなんて思わないよね!
結界の魔法は私が一番得意とするものである。伊達に六年間、国を囲い続けていない。もっとも今は魔力が減っているからそんなことはできない。
「もし見つけたら殺さないでね。ぜひとも研究したいな」
「はっ。かしこまりました」
「これからもヒトダマの回収はして貰うし、その時に見つかるかもね。ゴースト一体進化させるのに千体も必要だから、ヒトダマはいくらあってもいい。スケルトンのご飯にもなるし」
おお、思わぬところで次の進化条件が判明した。やっぱり必要素材が足りなかったんだ。素材がないと条件を見れないのは不便だ。
その後も彼らは他愛のない会話を続けていく。魔王と配下という関係なので、和気あいあいという感じではない。それでも話せる魔物は少ないのか、ファンゲイルは楽し気に笑っている。
(すぐにでも侵略! って感じではないかな? 最後にファンゲイルの姿を見ておきたいな)
燭台からおっかなびっくり顔を出す。三人は会話に夢中で、壁際に目をやることはないはずだ。たぶん。
(ようやく魔王とご対面……)
どこから持ってきたのか黒く禍々しい玉座に腰かけるのは、美少年だった。髪は絹のようなプラチナ、顔立ちは声と同じく幼い少年のようで、あどけなさが残っている。魔法使い然とした紺色のローブを纏っている。
貴族のミーハーな令嬢たちなら思わずうっとりするような容姿だけど、それよりも衝撃的な光景に目を疑った。
(なんかオシャレした骨を抱いてるんですけど!?)
骨に真っ赤なドレスを着せて、まるで恋人のように抱き寄せていた。
え? なになに怖い。
どういう趣味なの!? 不死の魔王は死体が好きなの?
スケルトンではない。魂は感じられないから、ただの死体だ。
女性の白骨死体なんだろう。ファンゲイルは骨を傍らに座らせて、肩を抱いている。時折愛おしそうに頭を撫で、頬を寄せる。隣にいるのが骨でなければ絵になる光景なんだけど、恐怖しか浮かんでこない。
(へ、変態だぁあああああ)
『不死の魔王』ファンゲイルは私の常識では測れない、とんでもない男だった。
白髪、眉目秀麗。しかし死体が恋人。アンデットを操る魔王は嗜好も歪んでしまうのか。ひい、私も捕まったら弄りまわされる!
「あれ? 誰かいるのかな」
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