第13話 ひゃあああ、食べないでぇええ!
『不死の魔王』ファンゲイルが住まう砦の中に入ると、中はアンデッド系の魔物が闊歩していた。森で徘徊している魔物たちとは違い、武器を持つスケルトンが多い。スケルトンソルジャーなどの、少し強いスケルトンだね。門番スケルトンさんほどじゃないと思うけど、数が多い分彼らが魔王の主戦力なのかもしれない。
砦の中に動物のスケルトンはあまりいないみたい。
(ゴズメズはもう見えないね。ついていけば早かったのに)
魔王の姿を確認して、できるなら侵攻の予定とか戦力とか、そういった情報が欲しい。
レイニーさんに伝えれば、何かしらの対策をとってくれると思うんだ。死霊の身体だと近づいた瞬間消滅させられそうな件については、後で考えよう。
(うわぁ、あれゾンビだ)
同じ遺体にヒトダマが取り憑く『憑依系』でも、骨しかないスケルトンに対して死肉がついたままになっているのがゾンビだ。筋肉は腐り落ち、目玉が飛び出ている。うう、気持ち悪い。
匂いを感じられない身体で良かった。ゾンビは強烈な死臭を発する上に疫病の温床となるので、スケルトン以上に嫌われている。
(ゴーストはいるけど……進化形っぽいのはいないかな?)
どうやったら進化できるか知りたかったんだけどなぁ。
もしやもう進化しないとか……いやいや、何か方法があるはず!
とりあえず当初の目的を果たそう。
本拠地の場所は確認できたから、あとはファンゲイルを探して、何かしら情報が欲しい。無茶して殺されたら嫌だから慎重にね。
(私、知ってるの。偉い人は高いところに行きたがる!)
砦の構造はよく知らないので、まずはしらみつぶしにして階段を探そう。
外から見た感じ、三階くらいまであったかな?
(ていうか、天井をすり抜けたら早いじゃん!)
思い立ったが吉日。さっそく上に登っていった。あまり高く飛べないけど、天井くらいなら届く。
ゴツン。って感じでぶつかった。ズルはダメってことかな。
ゴーストっぽい動きを心掛けて移動する。
ゆらゆら、ふわふわ。
気分は湖に浮かんでいる感じ。流れに任せて移動する。
リラックスできて気持ちいんだけど、周りがカタカタうるさいから微妙。スケルトンばっかりだからね。
ゴズメズのように公用語を解する魔物は今のところいない。そりゃそうだ。あんな強いやつが何体もいたら困る。
(お、ここは食堂かな?)
この砦がまだ王国の持ち物だった時、兵士の食事に使われていたであろう部屋は、そのままスケルトンの食事処になっていた。
アンデッド系は既に死んでおり不眠不休で戦える魔物であるが、まったく食事がいらないわけじゃない。魔物になってわかったけど、結構お腹空くんだよね。
彼らが食べるのは魂だ。
観察していると、一匹のスケルトンが厨房からボウルを受け取って椅子に座った。中に入っているのは、数匹のヒトダマだ。
(ええええ! 養殖場のヒトダマってこういう使い道!?)
戦力がどうこう言ってたから戦わせるのかと思いきや、ご飯だった!
ゴズメズに捕まっていたら私もこうなっていたのか……危なかった。
(まあ私もヒトダマは好物です!)
浮かれ気分で厨房に向かう。
死霊になってから主食はもっぱらヒトダマさんだ。お世話になってます。
彼らのおかげで死のショックを忘れられたといっても過言ではない!
ヒトダマって魂の魔物なわけだけど、私みたいに前世があるのかな?
だとしたらかなり気まずい。ギフテッド教の教えでは死んでもヒトダマになるわけじゃないって話だったけど、私ヒトダマになっちゃったからなー。
まあ生きるために食べるんですが!
人間だったころの感覚はどこへ行ったのか、とつくづく思う。
「うふふ」
厨房にいたコックスケルトンに短い手を上げてアピールする。
他のスケルトンより骨が綺麗で身体が大きいから、ちょっとランク高そうだね。手には剣の代わりに包丁を持っている。
「カタカタ」
コックスケルトン(私命名)は猪の首でも落とせそうな出刃包丁を持って、近づいてくる。へい、一番生きのいいやつ頼むよ!
ヒトダマはどこに収納されてるんだろ。ゴズメズが持ってた
手ぶらでやってきたコックスケルトンは何故か私に手を伸ばし、大きな手のひらでがしっと掴まれた。
「あは?」
(へ? なんで私のこと触れるの?)
ヒトダマを調理するコックだから、霊体に干渉できるスキルでも持ってるのかもしれない。
捕獲された私はそのまま厨房に引き込まれ、まな板の上に置かれた。
これはまさか……と思っていると彼は出刃包丁をキラリと煌めかせ、振り上げた。
(私、エサだと思われてる!?)
一番生きの良いのは私でした。ぴちぴちの享年十五歳だからね。
そんなこと言ってる場合じゃない。
(ひゃあああ、食べないでぇええ! ファイアーボール!)
聖女の魔法は使わない。聖属性の魔力はアンデットにとって弱点だから、みんな敏感なのだ。感づかれる恐れがある。
派手な火の玉で怯ませた隙に厨房を飛び出した。
(ひどい目にあった……)
スケルトンにむしゃむしゃ食べられるなんてやだよー。
気を取り直して探索を再開する。
(えっと、武器庫かな?)
次に見つけたのは武器庫だった。
敵の戦力分析も目的の一つである。私はこっそり武器庫に侵入した。
剣や盾、全身鎧に槍、弓、斧など、多種多様な装備が並んでいた。
砦にもともと備え付けられていたものが多いのだろう。ほとんどが古くなって錆びている。スケルトンたちが装備している武器もボロボロなので、手入れしたり武器を作ったりする技術はないのかなー。
ゴズメズや門番スケルトンはちゃんとした武器を持っていたので、高位の魔物はやはり武器も強い。
カチャ。
(ん?)
何か音がなった気がする。
しかし、武器庫を見渡しても私以外の魔物はいない。気のせいかな。
カチャカチャ。
違う、今度ははっきりと背後で金属が擦れる音がした。
恐る恐る振り返る――が、そこには鎧が並んでいるだけだった。風でも吹いたのかもしれない。
私は前に向き直って、またすぐ振り返った。
フェイントをかけた私の目に飛び込んできたのは、変な体勢で固まってる全身鎧だった。
前屈みになって急停止するものだからバランスを崩して、倒れこむ。その拍子に兜が外れて転がった。
(この程度のフェイントに引っ掛かるなんてまだまだ――え?)
鎧は空っぽだった。
(てっきりスケルトンが入ってると思ったのに!)
そういう魔物がいるのは知ってるけど、ふいに来られるのはびっくりするよ!
エアアーマーという憑依系の魔物だったはず。起き上がってくる前に逃げよう。
「カチャカチャ」
自分の頭を持って起き上がるエアアーマーを尻目に、武器庫を出た。
いろんな魔物がいるね……。
(やった、階段発見)
武器庫を出て少し行ったところに、上へ向かう階段があった。
ひょっこり顔を出して様子を伺う。うーん、上に向かう魔物は誰もいないね。
スケルトンもゴーストも、好き勝手徘徊しているように見えて階段には近づかない。
まるで、立ち入りを禁止されているように。
(ふふふ、これじゃ魔王がいますよって言っているようなもの! 聖女ちゃん名推理)
バレたら迷い込んだフリして許してもらうとしよう。ようやくファンゲイルを発見できるかも。
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