第12話 生きるとは、戦うことである!

(生きるとは、戦うことである!)


 だからごめんね、お仲間のゴーストさん。ケラケラ笑ってて楽しそうなところ悪いけど、お腹すいちゃったの。


 これでも生前は『争いは何も生みません』とかしたり顔で言ってたんだけど、魔物になってみると分かる。戦わないと死ぬのだ。

 ホーリーレイで弱らせたゴーストを吸収してお腹を満たす。うん、美味しい。


 魂の味は相手によって違うんだけど、ゴーストは今まで食べた中で一番美味しい。ワーストはスケルトン。

 通りすがりのゴーストに舌鼓を打つけど、ゴズメズからは目を離さない。もう半日ほど歩いているのに、まだ本拠地に着かないのだ。結構遠いね。


 物陰に隠れながらゆっくり追いかけてるから、尾行はバレていない。不死の森ではスケルトンやゴーストは珍しくないから、気にしていないのかもしれない。


 この森はアンデッド系の魔物がたくさんいるのだ。ファンゲイルはアンデッド系の魔物を生み出す『魔王』らしい。私がヒトダマとして生まれたのも、彼の術の影響なんだろうね。

 魔物を生み出す魔物を『魔王』と呼び、ファンゲイルは『不死の魔王』と呼ばれている。アンデッド系の魔物を創り出すだけでなく、彼自身もアンデッドで死ぬことがないらしい。


(そういえば、ゴズメズもアンデッドなのかな? そんな風には見えないけどなー)


 ちょっと気になったので、神託を使ってみる。


『お告げ

 種族名:不明

 種族スキル:不明』


(ありゃ、だめだった)


 試しにゴズを対象としてみたけれど、多分高位の魔物はスキルを跳ね返せるのかな。

 私は初めてだけど、レイニーさんにそんな話を聞いたことがある。


 ちなみにメズに使わなかったのは、スキルが掛けられたことを気取られる可能性があったからだ。神託には独特の抵抗感があるらしく、分かる人は分かる。ゴズは鈍感そうだからきっと大丈夫!


(お、あそこかな?)


 景色が変わらない森を歩き続け、見えてきたのは大きな砦だ。石造りの堅牢な作りで、苔やツルに覆われている。


 その昔、ここが王国の領土だった時に建てられたもので、国境の警備や哨戒のための兵が拠点としていた場所だ。ファンゲイルの侵攻によって陥落し、そのまま奪われてしまった。


 そもそも、この森はもともとアンデッドが闊歩する危険な領域ではなかった。

 自然の実りと動物たちで溢れる、豊かな大地だったのだ。しかしファンゲイルが拠点としてから、常に薄暗く陰気な空気が立ち込め始めた。


「やっと着きおったか」


「ゴズとメズである。ヒトダマの回収から戻った」


「カタカタ」


 剣と盾を構え、金色の兜を被ったスケルトンが顎を鳴らして門を開けた。

 その辺に転がっているスケルトンとは明らかに格が違う。骨も一つ一つがいぶし銀のように鈍く輝いていて、背筋をピンと伸ばしている。


 その門番がぺこぺこしてるから、ゴズメズはやっぱり位が高そうだ。

 さて、どうやって入ろうかな。


(んん? 結構みんな普通に入っていくね)


 ゴズメズを遠目で見送ってしばらく門を観察していると、時折中に入っていく魔物たちがいた。

 彼らのような話す魔物でなくとも、普通のスケルトンやゴーストも門を通過していく。


 門番スケルトンは格下に対しては気さくな感じで手を上げて門を開ける。結構感情豊かだ。スケルトンやゴーストは特に反応せず、静かに入っていった。


(私も普通のゴーストのフリして入ろう!)


 一人で行く勇気はなかったので、一匹のゴーストがゆらゆらと砦に向かうのに合わせてついていった。

 ゴーストたちもヒトダマと同じく、私みたいに意思がはっきりしているわけではない。でもちょっとは頭が働くみたいで、ふらふらしてるけどしっかりと門に向かっていく。


(怪しまれないように動きを真似して……っと)


 真っすぐ飛んでいけたら早いのに、じれったい思いをしてようやくたどり着く。


「けら!」


「カタカタ」


 おお、近くで聞くとちょこっと挨拶してた!

 私もそれやりたい。


「カタカタ」


「あはは!」

(いえーい)


 門番スケルトンが陽気に手を上げてきたので、手と呼ぶには寂しい小さな突起を突き出して、ハイタッチした。触れないけど大切なのは気持ちだ。


 どことなく呆気に取られた表情をした気がするけど、気にしない。

 私はついに『不死の魔王』ファンゲイルのアジトに足を踏み入れた。

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