第8話 スケルトン、なりたくない……

 今日も今日とてスケルトンを倒して、進化条件レベル目前となった私は、悩んでいた。


(スケルトン、なりたくない……)


 進化するにあたり、キツネビかスケルトンか、どちらに進化するか考えていた。

 キツネビはF+でスケルトンがEなので、強さで言えばスケルトンに進化した方がいい。ほとんど姿の変わらないキツネビに対し、骨だけだけど身体が手に入る。


 しかし、何十体ものスケルトンを倒すうちに、こうはなりたくない、という気持ちが湧いてきたのだ。


(だって気持ち悪いんだもん! それに裸じゃん。裸どころか骨じゃん!)


 心の中で叫ぶと、様々な姿をした骨たちが一斉にこっちを向いた……気がする。


 スケルトンといえば、人間にとって嫌われ者だ。

 夜な夜な外を徘徊し、意味もなく周囲を破壊する。しっかり骨を砕かないとすぐ起き上がるし、倒しても金になる素材はない。


 なにより見た目が恐ろしい。その気になれば文字くらい書けそうだけど、街に近づいた段階で殺されて話なんて聞いてもらえない。


 今も、薄暗い森の中をカタカタ音を鳴らしながらうろついている。目が空洞だからよく見ると怖い。

 あばらから指先に至るまで、肉の一片もない。内臓も当然ないので、向こう側が透けて見える。


(うん、やだ!)


 人型になって話せるようになるのが目標だけど、形だけ人になっても意味ないんだ。体重が軽いくらいしか利点ないよ!?


 感情だけでなく、合理的な理由もある。

 スケルトンは動きがもの凄く遅いから、今と比べて行動がかなり制限されるのだ。


 それはスケルトンの上位種であっても変わらない。武器を持つスケルトンソルジャーや魔法を使うメイジスケルトンなどもいるけど、動きはだいたい同じだ。話すこともできない。


(やっぱキツネビかなー)


 キツネビの場合は、同じ霊魂の魔物なはず。

 アンデッド系には大きく分けると二種類あって、肉体を持たない魔法生命体の『死霊系』と、死体が動いたり物質に取り憑いていたりする『憑依系』だ。


 肉体的に強いのは当然後者だけど、魔力が多く言葉を話す可能性が高いのは前者の死霊系だ。憑依系も相当高位の魔物になれば話す個体もいるけど、ほとんどは話せない。


(話すのが目的なら死霊系の方がいいよね……魔力が増えれば魔法もたくさん使えるし)


 うだうだ悩んでいたけれど、心は決まった。

 私はオバケになる! 死体は嫌だ!


(肉体なんて捨て去るのだー。私、これからは死霊聖女ちゃんとして生きていきます。もう死んでるけど)


 というわけで、いつも通りスケルトンを倒してレベルが上がった。


『進化条件を達成しました。必要素材が確認できません。種族名:キツネビへの進化でよろしいですか?』

(はい!)

『開始します……完了いたしました』


 おお……。感覚的にはあまり変わらないかな? 魔力は倍くらいになったと思う。

 私はうきうきで洞窟に戻り、すっかりお世話になっている鏡代わりの水たまりを覗き込んだ。


(青くなってる!)


 白い球、赤い火の玉ときて、青い火の玉になった。

 大きさは一回り大きくなったくらいで、見た目は変わらない。人骨スケルトンの頭蓋骨より、少し大きいくらいかな。


(どれどれ、スキルは……お、ファイアーボールだって。火の息より強そう!)


 外に出て、スケルトン相手に試し打ちをしてみる。

 魔力を少しだけ消費して、目の前に赤く燃え上がる炎の球が出現した。中心に向かって渦巻く炎は、まっすぐスケルトンに飛んでいく。

 私の身体とほぼ同じ大きさのそれは、飛んで逃げようとしたカラス骨スケルトンを撃ち抜いた。


 なかなか威力高いね。発動に若干時間がかかるけど、アンデッド以外にはホーリーレイよりダメージを与えられそうだ。


『進化系譜

 進化先候補

 ウィル・オ・ウィスプ(E) 進化条件 LV20

 ゴースト(E) 進化条件 LV20 必要素材:魂×100』

 

 ちなみに、次の進化系譜はこんな感じ。

 今度は最初から二つあるね。たぶん、必要素材が最初から溜まっているからだと思う。魂なら三百個くらい食べたし。


 どっちに進化するかは置いておいて、まずはレベル上げだ。


(ふふ、魔力も増えたし、スケルトン全部倒そう)


 見渡す限り、スケルトンはまだまだいる。

 みんな私のレベルになってね!

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