第6話 カタカタカタカタ

 私、現在オニビ生活満喫中!


 ヒトダマが集められていた場所は小さな部屋がいくつもある洞窟だった。ゴズとメズの話によるとヒトダマを発生させる部屋らしい。

 結界をあっさり抜けて自由を手にした私が行ったことは、全ての部屋のヒトダマを食べ尽くすことだった。彼らが回収していったのは一部だけだったようで、まだまだ沢山いた。ごちそうさま!


 魂を吸収するなんて、人間だったころは考えられなかったことだ。魔物となって精神も魔物化しているのか、何の抵抗もない。

 精神といえば、国を救うために急がなきゃいけないのにかなり冷静だ。焦ることなく、レベルを上げている。


 もともと呑気な性格ではあったけど、それにしてももう少し慌てても良い気がする。

 死んだ身だから関係ないといえばそうなんだけどね。


(ヒトダマじゃあんまりレベル上がらなかったなー)


 オニビとなってから数十のヒトダマを吸収したが、レベルはほとんど変わらなかった。

 自分より下位の魔物では成長しづらいのかもしれない。


 外に敵がいないか入念に確認した。

 オニビは実体がなくて壁をすり抜けられるから、隠れるのは得意だ。顔(にあたる部分)だけをこっそり外に出して、様子を伺う。


(外はやっぱり森だね)


 『不死の魔王』ファンゲイルが拠点としている、不死の森。

 アンデット系の魔物が多く生息し、ベテランの冒険者でも迷い込めば生きては出られない危険な森である。


 作戦はこうだ。

 強そうな魔物からは逃げる。勝てそうな相手は倒して進化を目指す!

 次の進化先は『キツネビ』という魔物。見たことはないけど、たぶん喋ることはできなそう。


 となると孤児院に危機を伝えて助けるためには、さらに進化を重ねる必要がある。


(レイニーさんたちは大丈夫かなぁ)


 王宮に入ってからずっと面倒を見てくれた枢機卿レイニーさんを思いだす。

 私にとっては仕事仲間であると同時に、母親のような人だ。私が処刑されたことで暴走してなきゃいいけど。


(王子や貴族たちはムカつくけど、大切な人たちもいっぱいいる。頑張らなきゃ)


 伝えるだけなら、話すことができればいい。

 でも守ろうと思ったら、莫大な魔力が必要だ。全力で聖女としての権能を使っても足りるくらいの、大量の魔力が。


 オニビになって少し増えたけど、まだまだだ。

 ホーリーレイを二十発も打てば、すぐに息切れしてしまう。生前の私には遠く及ばない。


 どちらにせよ、進化は必須というわけだ。

 ということで、手ごろな敵を探しに辺りを彷徨う。


(霊魂の身体、とっても楽)


 あっちに行きたい、と思うだけで移動できるのだ。

 足を動かす必要もないので、疲れない。ゆらゆらと尻尾のように炎は動くけど、体力や魔力の消耗はない。障害物も無視できる。地面には何かがごろごろと転がっているので、歩くとしたら大変だったと思う。


 死後の世界、意外と楽しい!


 これで空も飛べたらもっと良かったけど、なんでかあまり高くまでは行けなくて、せいぜい建物の二階くらいまでだった。

 だから低いところを移動する。


 昼間なのに薄暗い森を漂って、魔物を探す。

 どこからかカタカタと謎の音が聞こえてきたので、足を止めた。風の音かな?


「カタカタカタカタ」

(きゃああああああ)


 叫んだ。

 声は出なかったけど、大いに慌てふためいて逃げた。


 一瞬しか見えなかったけど、目の前に突然人骨が現れたのだ。

 地面にごろごろと落ちていたのは骨だった。それが生前を思い出したかのように人の形を成して、立ち上がったのだ。


(スケルトンだ! ううぅ、結界の中から遠目で見るのとはわけが違うよ……)


 スケルトンは低級の魔物で、王国付近でよく見られる魔物である。

 人間だけでなく、カラスや牛などいろんな動物の骨に取り憑いて動く。魔物全般に言えることだけど、生態が謎だ。


 さすがにここまで来れば大丈夫だろう。


「カタカタ」

(ひぃい!)


 後ろにもいた!


 いや、それどころじゃない。

 洞窟の周り、スケルトンだらけだ。


「カタカタカタカタ」


 連鎖するように、そこら中でスケルトンが立ち上がりだす。

 多くは人間の骨、次いで多いのは鳥だ。骨がぶつかり合う音が静寂を塗りつぶした。


 近くにいた一体のスケルトンが空洞な目で私を見た。


(私、美味しくないよ! ただの炎だよ!)


 私の願いは届かず、人骨スケルトンが腕を振り上げた。武器もなにもなく、ただ腕を振るだけの攻撃。


(大丈夫、オニビに物理攻撃は効かな――いやぁああああ)


 痛い! なんで!?

 ヌシに吸収されかけた時と同じ痛みだ。魂に直接ダメージを与えてくるってこと?


 霊魂系は比較的無害な代わりに物理攻撃を無効にする。魔法攻撃か、属性の乗った武器でしか倒せないのだ。


「カタカタカタカタ」


 歯をかき鳴らして、なおも私を追い立てる。まずい、何発もくらったら死ぬ。

 逃げてもスケルトンはたくさんいるし、高度を上げても鳥スケルトンがいる。


 なら倒すしかない。スケルトンはアンデット系の例にもれず、聖属性が弱点だ。


(ホーリーレイ)


 突き出してきた腕をひらりと避けて、聖なる光線を打ち込む。スケルトンの肩に当たって、肩から先が動かなくなった。

 ちゃんと効いているね。


(ソウルドレイン)


 スケルトンは筋肉なんてないのに動ける。それはヒトダマが宿っているから、とされている。ということは、ソウルドレインが有効なはずだ。


 百体近くのヒトダマを吸いつくしたスキルで、スケルトンを攻撃する。あまり美味しくないけど、確かに魂を吸う感覚があった。しかし倒すには至らない。



(火の息!)


 オニビになって新しく増えたスキルを発動した。

 身体から松明ほどの大きさの炎が噴き出し、スケルトンを襲った。しかし骨は燃えないから、表面を軽く焦がすだけだった。


 やはり倒すならホーリーレイしかない。今度は頭を狙ってホーリーレイを放ち、怯んだ隙にソウルドレインで魂を吸収する。骨に宿った魂を全て吸いつくし、骨はバラバラになって地面に落ちた。


(スケルトンの魂美味しくなーい。でも勝てた!)


 勝利の余韻に浸るのも束の間、すぐに他のスケルトンが襲ってきた。

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