第3話 ヌシにリベンジ!
日が入らないから時間の感覚は曖昧だけど、たぶん三日くらい経った。
相変わらず私はヒトダマで、周囲には同族たちがぷかぷかと漂っている。
十五歳という若さで死んだ私は、魔物として生まれ変わったのだった。
この三日で分かったことがいくつかある。
まず、私は聖女の魔法を使える。ただし、聖女だったころより魔力――魔法を使うために消費される力――が圧倒的に少なくて、ロクに発動できない。使えるのはヒトダマを怯ませるのが精いっぱいの威力控えめホーリーレイくらいだ。
もう一つは、この洞窟なのか洞穴なのか分からない空間には、ヒトダマが集められているということ。日夜ヒトダマ同士の喰らい合いが行われているが、少し経つと新しいヒトダマが生まれる。
ヒトダマ同士が接触するとほとんど例外なくサイズの大きい方が勝ち、小さいヒトダマは吸収される。
唯一の例外が、この私だ。
(ホーリーレイ)
近くにいる私より一回り大きなヒトダマに、ホーリーレイを放った。
アンデットの弱点である聖属性の魔法で大ダメージを与える。そして怯んだ隙に接近した。
(ソウルドレイン)
ヒトダマの持つ種族スキルで相手を吸収した。
取り込んだ魂は澄み渡る水のように身体に浸透し、私の一部になった。私の存在が一つ強化された気がする。
スキルとは、生物が発動することができる特殊な技だ。魔法も広義ではスキルの一つである。
また、神の庇護下にない故にギフトを得られない魔物であっても、種族ごとに固有のスキルを持つことは広く知られている。ヒトダマのスキルがソウルドレインであった。
それを知ることが出来たのは、聖女のスキルのおかげだ。
(また一匹倒したね。――神託)
『お告げ
種族:ヒトダマ(G) LV6
ギフト:聖女
種族スキル:ソウルドレイン』
レベルが六に上がっているのを確認する。
『神託』は聖属性のギフトを持つ者なら全員使える、一般的なスキルだ。自分や相手のギフトを知ることができる。王国に生まれた子どもは五歳になると聖職者から『神託』を受け、自分にギフトがあるのかを確かめるのだ。
また、ギフトの有無にかかわらず経験を積むことでレベルが上がる。レベルが上がると身体能力やスキルが強化されるので、レベルやスキルの確認にも便利なスキルだ。
さらに、魔物になったことで人間だったころとは違う神託結果も現れた。
『種族系譜
進化先候補
オニビ(F) 進化条件:LV10』
それが、これだ。
魔物は成長すると姿を変えることがある。身体が大きくなる、とかではなく生物として全然違う姿になるのだ。これは、人間や動物とは大きく異なる特徴である。
神託で進化先を確認するばかりか、進化条件まで判明した。
自分がもう人間ではないことに少しだけショックを受けたけど、今では清々しい気分だ。もう人間じゃないんだから、好き勝手生き抜いてやる!
(というか、モンスターって普通進化先とか確認できないよね? 神託もないし。私ちょっと有利かも!)
なので、目下の目標はオニビへの進化である。
必要レベルは十だ。だが、四を超えたあたりから小さなヒトダマではなかなかレベルが上がらなくなっていた。
(よーし、ヌシにリベンジするよー!)
私は意気込んで、ヌシを探した。
と言ってもそう広くない洞窟だし、ヌシはものすごく大きい。オニビにはまだ至っていないみたいだけど、私の見立てではレベル八か九だと思う。
小物を狩り続けるのは飽きたので、ヌシを吸収してさくっと進化しよう! という腹である。
理由はそれだけじゃない。一度は逃走した相手で、その後も近づかないように気を付けていた。言ってしまえばびびっていた。初めて魂を吸い取られる恐怖体験が軽くトラウマになっているのだ。
だから、私はヌシを倒してトラウマを克服しなければならない。でも、ヌシがオニビになってしまったら多分勝てない。倒すチャンスは今だけなのだ。
(つるりと平らげてやるんだから)
魂を食べるなんて生前は考えられなかったことだけど、これがなかなか美味しいのだ。味覚はないし喉もないけど、喉越し最高って感じ。
その感覚は相手のレベル、つまりはサイズが大きいほど良くなるので、きっとヌシはとても美味しい。よだれが出る。
私が近づいていっても、ヌシは何も反応を示さない。ふふ、その油断が命とりだよ。
(ホーリーレイ)
まずは先制攻撃。
人差し指ほどの太さの光線が、ヌシを貫いた。魔物の一種とはいえただの霊魂だから、叫んだり痛がったりはしない。でもたしかにダメージはあるのか、半透明の身体を彩る光が少しだけ揺らいだ。
(効いてる!)
それは最初の邂逅で逃げおおせたことから分かっていたけど、改めて確認できた。
でも、レベル差があるから倒すには至らないだろう。
(ホーリーレイ!)
相手の反応が鈍いのを良い事に、もう一発打ち込む。レベルが上がって魔力が増えたので、打てる回数も増えたのだ。
(良い調子! そろそろ行けるかな?)
ソウルドレインを使える範囲までゆっくり近づいていく。
ここまで大きく成長したのにごめんね。あなたの魂は私が美味しくいただくよ!
たった三日でずいぶん人間の感覚を失ったものだが、魂は美味しいし汚いものでもないので忌避感はない。ギフテッド教の考えでは、むしろ神聖なものだ。
ヌシに私の身体をぶつける。実体はない霊魂だけど、お互いの領域が接触した感覚はある。
(ソウルドレイン)
種族スキルの発動は、半ば本能的なものだ。ほぼ同時にヌシも同じスキルを使う。
ここからは魂の引っ張り合いだ。どちらの魂が強いかを競い、負けた方が吸収される。技術は関係ない。ただの膂力勝負――私以外なら。
(サンクチュアリ)
私には普通のヒトダマと違って、聖女の魔法がある。ヌシの足元の小さな範囲が、魔物を弱体化させる聖域になった。
(このまま押し切る!)
綱の両端を引くようなソウルドレインの競り合い。均衡していたそれは、聖域の効果によってヌシが弱体化したことによって、一気に崩れた。
終わりは一瞬だった。ソウルドレインによって、ヌシは私に吸収されていった。
(勝ったーーー!)
この洞窟で最強の存在に勝った喜びで、空中をくるりと回った。
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