第4話

別に私が想おうが想うまいが

全く関係なさそうに振舞う

訳の分からない人は

相変わらず

メンドクサイ自由な人だった.




「ねぇ,そっち頂戴.」


「同じですよ.」


「同じかどうか知りたいから.


頂戴.」


「本当はいや,

だけど,

いいですよ.」


私が買ったんじゃないし,

私の方が

ずっと味見している立場だ.


「うん.

やっぱり

そっちの方が美味しい気がする.」


「同じですよ.」


「食べてみる?」


「…うん.


やっぱり同じ.」


「同じで美味しい?」


「うん.」


「じゃあ,それも正しいよ.

正しいって,

いっぱいあるんだよ.」


「そっか.」


「ねぇ,かんちゃん.

俺と一緒に行かない?

俺は,ずっと

ここにはいられない.

ここの人じゃないし,

かんちゃんは

ここの人だし.」


「名前…

知ってたんだ.」


「だって,皆,

あなたの事かんちゃんって呼ぶから.」


「私…

かんなだよ.」


「そっか.」


「あなたは?」


「本当に?

名前知りたい?

俺は,あなたに現実として

記憶を残していくよ.

それでも,知りたい?」


怖くなった.

突然…


「まだ,知りたくない.

名前だけじゃなくて…

名前とかじゃなくて…」


「うん.

うん…」


波の音だけが

聞こえて,

いつの間にか

永く永い時が流れて,

夕焼けが

辺りをのみ込んで,

何もかもが分からなくなってた.


「あはは…

私…

よく分かんないや…」


「うん…」


「まだ,ついて行くとか

ついて行かないとか

考えても…

私の気持ちも

行動も

自分で完全に決められなくて.」


「うん.」


「…」


「分かってて言ったんだ.」


「えっ!?」


「ずるいだろ.

ずるくなるんだよ.


あなたは純粋.

純粋で濁っていない.」


何だか何も言えなかった.


「何もかも忘れて.


もう時間が無いから.

楽しく過ごそう.

そう楽しく.」


「いつも楽しく過ごしてる…」


「そっか,いいね.


学校楽しい?」


「楽しい.」


「俺さ,あの雰囲気が

苦手でさ.

あんまり行けなかった.


教科書に載ってる事いっぱいあるけど,

教科書に載ってない事もいっぱいあるよ.」


何だか言葉が

波と共に寄せては引いていった.

静かに深く.

私が

何かするって事は無くて,

ただ,

そこに前からとめどなく

起こってる事象のように.


「これから教科書に載ってない事も

たくさん知っていくんだ.」


そうなのか…

でも,それは

私が知りたいと思えた時に

知る事が出来ますように…

願わくば,それだけ.


「帰ろう.

心配するでしょ?」

そう唐突に言って

立ち上がった.


「あなたを切り取って

持って行くよ.」


綺麗な星空に

吸い込まれていった

言葉に

ただ,

佇む事でしか

いられなかった.



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