第3話

私の心は私だけのものって

思ってる.

誰も入る事は無いし,

そんな事

考える必要もない.


船着き場に着くと,

メンドクサイ買い物客が

待ってる.

「お帰り.

食べる?」

って言いながら,

溶けてないアイスを持って.

いつ買ってんのよ.


「食べる.ただいま.」

って何回言っただろう.

毎回,

違う種類のアイスを

周回する.

限られた少ない種類のアイスを.

「こんなに毎日食べ続けたら

太る…」


「前か後ろか分かるようになって

いいんじゃない?」


「そっか.」

言うと思ったか…

思いっきり肩を押す.


アイスが…

落ちた.

ドロッと崩れて

砂まみれ.


「あーあ…」

ざまぁって笑ってると,

世の中って

戻ってくるんだ.


「あらら…

残念.」

こっちの方が被害甚大…

プリーツの上.

急いで,

掴んで口の中に入れる.


「私.

食べられたから.

残念.」

ふふふん.


「鼻の穴見えてるよ.」


「え…

見ないでよ.」

言い終わるか

言い終わらないかの時に,

私の指が

見えなくなる.


「最後に味わえた

俺の勝ち.」


目が合う.


「私っ!

もう今日は帰るから!!!」


「じゃあ帰ろっか.」


「一緒に帰るなんて言ってないんだから!」


「?

いつも話した後

一緒に帰ってるでしょ?」


「でもっ!

約束なんてしてないんだから!!!」


「約束なんかしてなくても,

いつも一緒に帰ってるでしょ.」


「そうだけど…

違う!

今日は違う.」


「頑固ちゃん.」


「頑固ちゃんじゃないわよっ.」


「知ってるけど.」


「とにかくっ.

私は帰る!

あなたは,ここにいて!」


「いつまで?」


「私が帰るまで.」


「それで機嫌直るの?」


さぁ…

機嫌直るのかだなんて

私も分からない.


こんな事

今までなかったから.


砂に足を取られながら,

ローファーの中に

砂が入らないように動くなんて

いつもの考えも無くなって,

アスファルトの道路に出る.

そのままの勢いで坂道をのぼる.

何で,

こんなに

息を切らしてるのだろうとか

色々と不思議な事ばかりだけど.


曲がった所で,

指を口に含んでみた.

何だか

しょっぱいような気もしたし,

言い争わないで,

あの時に

そのまま

同じ事したら

違う味がしたんじゃないかって

そんな思いもした.


ちょっと私

おかしい.


「ただいまー.」

左手で,

ずっと持ってたアイスの棒を

捨てる.

洗って残して置いたら

良かったのかななんて

今更ながら思うけど,

もうゴミ箱の中だし

拾って何かをするなんて

ばっちくて出来ない.


手は簡単に洗った.

ごしごし洗うなんて

何だか出来なかった.

一緒にプリーツをつまみ洗い.

アイスが付いていた所は

大きめに水模様.

ぬれた部分の不快さは夢幻じゃない.

何かの余韻を思い出しては

叫びだしたくなるなんて,

そんな想いは初めてだった.











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