第2話

宿は,うちじゃなかった.

それだけで,

何だかホッとした.

扱いづらいお客さんは…

苦手だ.


制服着て,

船着き場へ向かう.

多分,

同じ学校の子の中でも

一番早い時間に起きてるんじゃないだろうか.

統計取った事が無いから分からないけれど.


この時間は暑くないけれど…

日中は暑くてジリジリして

シトジトするのかと思って…

御昼間は,

また上はぬるめの,

底の方は冷たい海に

飛び込みたいと,

そう思うんだろうなぁと思った.

本土の学校は,

楽しいけれど,

何もかも島からは離れていて,

そう.

ただ,

飛び込みたいなぁって思うんだ.

思うだけでしないけど.

卒業したら制服で飛び込んでみようか.

寒くて大変だろうな…




「女の子だったんだ.」


後ろから声がする.

やっぱり,持たなかったか.

朝ご飯,

船の中でリバースしたらいい.


「おはようございます.

良い写真が撮れてたらいいですね.」


「見る?」


ふ~ん.

現像したんだ.


「見せて頂けるんですか?」


「どうぞ.」


へ~.

綺麗に撮られてる.

あ~ここのお宿さんかぁ.

こんなお料理出るんだぁ.

美味しそうに見える.


「あ…」


「いや…

一番,初めだけ.

声の方が見えなくて…

望遠使って見たんだよ.

その時に撮っちゃってた.


それ,あげるよ.

ネガも必要なら用意しとく.

気になるなら処分する.


交渉前だから

いいかなって思ったけど.」

うろたえながら話している所が,

何だか大人らしくなくて,

芸術に触れる人って

こんな感じなのかな.


「ただ泳いでいる写真ですから.

大丈夫ですよ.」

返事をした.


ちなみに,

後ろから撮られたのかなって思った写真は…

大きく私のビーサンが写ってた.

こんな素敵なビーサン履いてたっけかな.

砂の上で待つビーサン.

私の足を,多分待ってくれてたんだろうな.

この人からは,こんな風に世界が見えているんだ.

同じ世界で生きていても

違うように見えるって…

不思議だなぁ.


「…写真良かったです.

船着き場,あっちですよ.

ご案内しますが.」


「え?

何で?」


「え?

何でって?


本土へ帰るんですよね?

こんな早くに.

忘れ物無いですか?」


「朝早く動いてたら悪いのかな.

朝の写真も撮りたくて.」


ほぉ.

そう言う事か.


「いえ.

失礼しました.


私,学校へ行くので.」


「うん.いってらっしゃい.」


会釈して,少し小走りになる.


「ああっ!

ねぇ!」


振り返ると,


「偶然,背景に入る分はいいの!?」

と言われた.


さっきの写真が

パパパパパって頭の中に浮かんで…


「どうぞっ.」


口から飛び出てた.


セーラー服が

明け方色に染まる.


短い髪は

なびいていかなかったけれど,

徐々に海風を感じていった.






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