16-2 辿り着いた場所
次第に慣れてきた未咲は、おそるおそる身体を起こした。忙しなく景色が変わる様子や、全身に受ける風が気持ち良い。自転車に乗る感覚ともまるで違う。夢で見た月夜見も
「楽しいーっ」
応えるように真神が吠えた。この楽しさや気持ちよさを雅久とも共有出来たら、と未咲は思った。この先ずっと、これから経験することすべてを雅久と共有出来たなら、どんなに素敵なことだろう。例えわたしが、雅久にとってどんな立場だったとしても、二人の時間を重ねることが出来るならとても嬉しい。ううん、嘘。出来れば恋人が良いです。
そんなことを考えながら真神とともに走っていると、ふいに真神がスピードを落とした。
どうしたのだろう、と未咲が小首を傾げると、
「うわっ!」
真神が急に右に曲がって振り落とされそうになった。未咲は
乗りこなす未来が急激に遠ざかったように感じられた未咲は遠い目をした。と、徐々に真神のスピードが落ちていき、やがて止まった。未咲は身体を起こす。すると、目の前に小さな木造の小屋が建っていて、目を見開いた。
その小屋は経年劣化でいつ崩れてもおかしくないと思うほどぼろぼろだった。所々傷がつき、壁に使われている木材が割れている。小屋を支える柱も
「……えっと、真神。もしかして、ここに人が住んでるの、かな?」
未咲は信じられない気持ちで真神に尋ねた。真神は未咲に降りろと
ごくりと喉を鳴らして、未咲は真神から降りた。これから幽霊屋敷にでも潜入するかのような心地だった。本当に幽霊が出たらどうしよう。未咲は怖々と腕を
未咲を小屋の中に迎えるような、拒絶しているような、どっちつかずの闇を見つめながら、一歩一歩とゆっくり近づく。すると突然、ぼわ、と
「まままま、真神!」
未咲は後ろに控えていた真神の元に素早く戻り、真神の首に抱きついた。月夜見という神の力を受け継いでいるかもしれないと言えど、未咲はオカルトの類が苦手な普通の少女であった。真神の毛に顔を埋めてふるふると身を震わせる。
「久方ぶりに人が尋ねてきたと思えば……失礼な
小屋の方からしゃがれた低い声が聞こえ、未咲は顔を上げてそちらを見た。闇にぼんやりと
「ゆ、ゆ、幽霊ー!」
「本当に失礼じゃな」
小屋から出て姿を現わした老爺は呆れたように溜め息を吐いた。それでも未咲は真神に抱きついたまま怯えた表情をして老爺を見ている。
「ほれ、足があるじゃろ」
老爺は片足を上げてつま先をぷらぷらとさせた。未咲はじっとその様子を見て、
「わたしのところでは全身見えていても幽霊、ということがあるんですけど……」
「まだ言うか!」
顔を赤くして怒る老爺に、未咲はやっと不味い、と思った。慌てて頭を下げて謝罪をする。
「ご、ごめんなさい! こんなところに誰かが住んでいるとは思わず」
「それも失礼じゃのう。儂はずっとここに住んでいるというのに」
「ええっ」
未咲は思わず声を上げて驚き、あっ、と口を両手で押さえた。今は何を言われても失礼なことを返してしまいそうだと、眉をハの字にする。
「あの月夜見の子孫のくせに、なっさけない顔をする娘じゃ」
「……え!?」
未咲は一瞬何を言われたのかわからず少しの間固まって、やがてハッと目を見開いて驚いた。
「つ、つ、つくよ、知って」
酷く動揺した未咲は上手く言葉を紡げず、さらに焦った。そんな未咲の様子を見て、老爺は豪快に笑った。
「はっはっは! おぬし、本当に月夜見の血筋か? 全然、まったく、欠片も似てないのう!」
「ど、どういうことなの」
おそらく、朔の日に見た老爺であろう。健康的な小麦色の肌は歳を重ねて沢山の皺が刻まれており、年齢は正芳と同じ頃に見える。あの日と同じく少し腰を曲げて未咲の様子を
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