14-2 不透明なわたし
「……夢」
未咲は格子天井を眺め、掠れた声で呟いた。やけにリアルな夢。まるでわたしの記憶かのように鮮やかだった。
「つくよみ……
ぼんやりとしていた言葉の
「――月夜見」
これだ。未咲は確信した。パズルのピースがハマったように、歯車が噛み合ったように、カチリと何処かで音がした気がした。
未咲の世界では、月夜見というと月の神を表す。「
この世界でも、月夜見は月の神なのだろうか。元いた日本と絶妙に異なる雰囲気のあるこの世界は、どこまで未咲の知る日本と似ているのだろうか。
未咲はあまりにも素直に「ここは異世界である」と受け入れていた故に、今まで詳しく知ろうという意識が薄かった。否、「調べてもどうせわからない」という、未咲の自身に対する期待の
いや、今は悔やんでいる場合ではない。あの日見た夢で聞いた「ゆるすまじ、つくよみ」が月夜見に対するものだということであれば、未咲の祖母も、未咲も、月夜見に何かしら関係があることになりそうだ。
大蛇は倒した。でも、まだ終わりじゃない。あれは正芳の言う鬼ではない。未咲は何故か確信していた。根本的な問題は解決していないのだ。
「さっきのは、月夜見の記憶なの……?」
未咲は右腕で両目を覆った。先程の夢が月夜見の記憶だと言うのなら、何故わたしがそれを見たのだろう。それに、夢の中にはあの白狼――真神もいた。真神はきっと、月夜見の
「はは……流石に、飛躍しすぎ」
未咲は乾いた笑みを浮かべた。冗談だと笑って済ませることは、出来なかった。
そして、一つ閃いたことがある。夢の中で、月夜見は桜の木に加護だと言って自身の力を分け与えていた。あの木は間違いなく、御神木だ。御神木だと呼ばれる
「“月夜見様がお戻りになられた”」
未咲は胸元の石をぎゅっと握りしめた。
それは、初めて正芳とともに桜を咲かせた御神木を見に行った時、正芳が呟いていた言葉だ。あの時は誰が戻ったと言っていたのか聞き取ることは出来なかったけれど、あの御神木に月夜見が加護をかけて、そのことを正芳が知っていたのだとしたら。正芳は枯れた御神木が再び花を咲かせる姿を見て、月夜見が過去そうであったように、再びこの村に加護を与えられたのだと考えたのではないか。
吐き気がする。心臓がばくばくとして、焦燥感と不安感で喉が締め付けられるようだ。
「わたし、が」
その後の言葉は、口にすることが出来なかった。
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