第13話 ねえ、わたしたち、ひとりなのかな
13-1 どうか、一人じゃありませんように
大蛇との戦いで疲れ果てた未咲は正芳と文子の家まで戻り、借りている部屋に着いた途端、ぷつりと糸が切れたように気を失ったらしい。それから三日後に目を覚ました未咲に、文子が涙ぐんでその時の様子を伝えた。
未咲は自身が三日も眠っていたという事実に驚き、けれど納得もした。雅久や白狼の傷を癒やした後、実は
それよりも気になることが、未咲にはあった。雅久のことだ。自分の力のことも重要だけれど、あの日別れた雅久の背中の孤独が
未咲は三日ぶりの食事を取った後、すぐに御神木のところへ行こうとした。そこへ、
「待ちなさい、未咲」
と、正芳が深刻そうな顔をして未咲を呼び止めた。
「ごめんなさい、正芳さん。わたし、雅久を」
「雅久を、よろしく頼む」
未咲の言葉を
「え?」
未咲は呆気に取られて、正芳の白髪頭を見つめた。何故正芳が頭を下げるのかわからなかった。傍らで不安そうに未咲と正芳の様子を見守っていた文子もまた、少々困惑した表情を見せている。
正芳は頭を上げ、悲しげな微笑を浮かべた。
「……酷い目に遭った後に山に入るのは危険だが、きっと、未咲なら大丈夫なのだろうなあ……」
「え?」
独り言のように吐き出された言葉を、未咲の耳は上手く拾うことが出来なかった。未咲が首を傾げても正芳は息を吐くだけで、正芳が何を言ったのかはわからなかった。
正芳は真剣な表情で未咲の目を見つめる。
「雅久は居ないかもしれないし、もう未咲の前に現われない可能性もあるだろう。それでも、未咲は雅久を待ってくれるか」
「――はい」
未咲は正芳を見据えて頷いた。正芳は一瞬目を伏せ、それからもう一度、ゆっくりと未咲と目を合わせた。
「ありがとう」
「え?」
「雅久のことは雅久に訊いた方が良いだろう。未咲になら、雅久も話してくれるかもしれない」
「――」
未咲は言葉を呑み込んだ。きっと、正芳は雅久の事情を知っているのだろう。雅久のことを見守るようにあたたかく、優しく、そして
家族とも違う。どちらかと言えば、友人、のような。そんな関係が正芳と雅久の間では築かれているのかもしれない。未咲は少し、羨ましいと思った。彼らの間には、確かな信頼関係があると感じたから。
「わたし、ずっと待ちます。来なかったら、絶対探し出してやるって決めました」
「……そうか。それなら、安心だな」
正芳は柔らかく目を細める。ふいに未咲は、祖父の顔を思い出した。
愛されていたのだと改めて気づいて、鼻の奥がツンとした。ああ、わたしもおじいちゃんとおばあちゃんが大好きだった。愛し、愛された思い出は、一人になった後もこうして語りかけてくる。だから、傍から見たわたしは家族を亡くして一人になった存在だけれど、決して一人ではないのだ。わたしはこんなにも愛で満たされている。
雅久にも、そうであってほしいと思った。正芳の友情や、未咲の恋情、そしてこれから出会う人たちの沢山の愛で、その心を満たしてほしいと心から思う。
「未咲ちゃん」
文子が申し訳なさそうに眉尻を下げて微笑した。
「あの子に会ったら、ごめんなさいと伝えてくれるかしら。本当は、直接謝りたいのだけれど……今はまだ、不用意に傷つけてしまいそうで怖いのよ」
「うん。必ず伝えます」
未咲は柔らかく答えた。文子は他者に歩み寄れる人なのだと感じられて、嬉しく思う。そうあれる人は、一体どれほど居るのだろう。わたしもそうでありたい。
「いってきます」
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