第4話 知りたいと願うのは
4-1 穏やかな日
雅久のことを知りたいと思い始めたあの日から
村の女たちとの話は、この世界のことを何も知らない未咲にとって神経をすり減らすものであったけれど――知らないうちにボロが出るのを避けるためだ――
雅久とは、驚くほどに何もない。そもそも、彼の姿を見てすらない。「村の人間ではない」という言葉の通りか、雅久は未咲が知る限りでは村に出入りしていなかった。初めて会った夜に正芳の元へ連れて行ってくれたのは、未咲という存在がイレギュラーであったからなのだと理解した。
その事実に未咲の胸は冷たい風に吹かれたようで、思わず漏れ出た溜息にハッとしてぶんぶんと頭を振った。
頭上からピーヒョロロ……と
「未咲ちゃん、お疲れ様。そろそろ休憩にしましょうか」
「はーい!」
そうだ、今は草刈りの手伝いをしていたのだ。未咲は声を掛けてくれた女性――
「凄い音だねえ!」
寧々が豪快に笑う。未咲は恥ずかしくなり頬を赤く染めて俯いた。
寧々は正芳から紹介された村人の中でも年齢が近い女性だ。快活で世話焼きな性格の寧々はあっという間に未咲と仲良くなった。村での暮らしをほとんど知らない未咲にも嫌な顔をせず、色んなことを優しく教えてくれる。寧々は4つほど年上で、もし自分に姉が居たならこんな感じなのだろうかと未咲は思っていた。
「手伝ってくれてありがとね。昼にしようか」
「いえいえ! わたしも、お昼ごはんまでいただいてしまって……」
「いいのいいの。そんなこと気にしないで。村ん中じゃ助け合いが当たり前なんだからさ」
からからと笑う寧々の優しさが染みる。未咲は頬を緩ませて礼を言った。
「少しは此処での暮らしに慣れてきたかい?」
「あ……お陰様で」
未咲は控えめに笑って返した。畦道に座り込んで、寧々が差し出した木製の弁当箱を受け取る。
「寧々さんには本当に感謝してます。寧々さんが居なかったら、わたし……」
「良いってば! やめてよ、そういうの。何か、恥ずかしいだろ?」
寧々は照れくさそうに笑った。いつも堂々と強気な姿を見せている寧々の可愛らしい表情に、未咲は思わずきゅんとした。年上の人に可愛いと思うのは失礼かもしれないけれど、寧々はとても可愛らしい女性だ。
「それを言うならあたしだって未咲に感謝してるんだから」
「わたし、何もしてません」
「この村に来てくれたじゃないか」
「え……」
未咲は
「この村に来る奴なんて、行商人か修験者くらいだろ? 年の近い女の子が来ることもないしさ。何もないことは良いことだろうけど、毎日毎日畑仕事ばっかりじゃあ、つまらないじゃないか」
寧々は歯を見せて笑う。
「未咲が来てからはいつもと違ってさ、何か楽しいんだ。ありがとね」
未咲は頬が熱くなるのを感じた。何て返して良いかもわからず、どういたしましての一言も言えなかった。
「
「初心って……。そ、それより、この村って外から人が来ることはあまりないんですか?」
「まあね。さっきも言った通り、行商人とか、修験者、あとは旅人くらいかねえ。……まあ、この村もちょいと危ないし、当然と言えば当然だと思うけど」
「危ない?」
未咲が聞き返すと、寧々はあっという表情をした。それからばつの悪そうな顔をして、ぽりぽりと指で頬を掻く。
「あー……そのうちわかることだし、村長さんから聞いた方が良いとは思うけど。あたしからも注意しておこうかね」
ふう、と寧々が息を吐き出す。未咲は心臓が騒ぎ出すのを感じた。
「朔の日の夜には、外に出ちゃいけないよ」
そう言う寧々の表情があまりにも真剣味を帯びていて、冗談でも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます