第一頁 風の噂ある処に旅人あり

 目を開け、一枚の毛布から身を抜け出し、軋むベッドから降りる。

 広いとは言えないが、狭く感じない家屋の薄暗い一室を出、裸足で冷たい廊下を歩き、外へ出る。風が真っ白い髪をなびかせる。

 目の前の石畳で出来ていた道路は蜘蛛の巣のようにひび割れ、深い溝が出来ていた。構わず砂利道と化した歩道を歩き、木造の街中を見渡す。いくつか倒壊しているのもあり、惨憺たるものだった。人々は割れた地面に気を付けながら懸命に街の修復や人命の救助を行っている。朝日が照らした景色は忙しなかった。

 その真っ赤に煌めく瞳を朝日のように輝かせ、天を見上げる。

「今日も平和な朝ですね!」


「――どごが平和だこの花畑頭!」「ほぇっ!」

 頭上から大きな拳骨が落とされる。白髪の美しき若人「イノ」は勢いよく地面に倒れた。

「何をどうみたらこの景色が平和だと宣言できるんだよ。寝ぼけてんのか」

 壮年の勇ましき屈強な大男「リオラ」はそう呆れた息をつき、赤黒い竜眼でイノを見おろす。短髪の赤髪をかき上げた彼は、人の形をしているも竜人族ティエンレイならではの戦闘に特化した血筋を継いでいる。


「あたたぁ、あ~おはようございますー。リオラは何してたんですか?」

 中性的であるも耳障りの良いのんびりした声を返す。思い切り殴られたであろうにもかかわらず、たんこぶのひとつすらできていないイノという人間もまた異常であろう。頭をさすりながら起き上がり、あぐらをかいては彼を見上げる。

 リオラは紅蓮の髪をガシガシと掻きながら溜息をつき、

「見ての通り村の手伝いだ。他のやつらもやってるから、早くおまえも手伝え」

「あ、みなさんやってるなら人手は足りてるはずですので僕はもう一眠りす――っ」

 バガン、と石が割れたような音がし、再びイノは地面へ殴りつけられた。


 太陽が真上に昇ったころ。震災にでも見舞われたかのような瓦礫も大方撤去され、負傷した村人らの治療も済んだことだろう。忙しなかった村も落ち着き、イノら一行は半壊した風車の傍で休憩していた。ここから見渡す先は家屋の数々に加え、緑燃える丘陵が続いていた。


「地震ですか? そんなの全然感じませんでしたよ?」

 ひび割れた数段程度の階段に座っていたイノは首をかしげる。それでも数段下の地面に立つリオラの目線には敵わない。イノの左斜め後ろの上段に座っていた金髪の鉱人族の少年(実年齢は三十路手前だが)「シード」はため息をつく。マシンエンジニアらしい作業服は赤と黄色を基調とし、数多の道具をしまい込んでいるのか一挙動するたびに金属音が鳴る。


「ぐっすり寝てたもんなぁおまえ。何度殴っても起きなかったし」と手のひらサイズの携帯型透過端末をいじりながら言う。この世界には電波を発信する施設はない。遠隔で飛ばしている機械から情報を得ているようだ。「周辺もあちこち被害に遭ってるな。地割れまで起きてら」


「幸い、わたしたちの泊まっていた家は倒壊せずに済みましたけど」

 聖職者ないし術師の風貌を思わせる銀髪の幼き少女「ファイ」は不安げに街中を薄い眼鏡越しで見る。自分たちのことを知らない村人たちはイノら旅団を歓迎してくれて、昨日の夕飯もいただいたというのに。その代わりとして他の世界で入手した素材や器材を提供したが、この惨状を前にすれば、それ以前に食糧と水が必須だろう。


「いつから揺れていたんですか?」

 あくびをし、イノは眠たそうに眼を擦る。

「早朝の六時ぐらいです。日が昇る前あたりかと」とファイ。背中まで流れる銀髪が風に揺れる。

「今は?」

「九時半だ」太陽を見てリオラは言う。

「てことは、地震起きてから三時間半ぐらいに起きたんだ。僕そんなに怒られる程寝てませんよ?」

「寝坊した時点でアウトだよ」

 シードは手刀をイノの脳天に当てる。「寝坊って悪いことじゃないと思ってたんですけど」とイノは眉を少しひそめる。


「あ、いたいた。みんなーっ、朝ごはん貰ってきたよーっ」

 少女の透き通るも元気な声が全員に届く。メルトの声だ。4人の視線の先、新緑を帯びたロングポニーテールが目に入る。

 その後ろには他数名の仲間たち。侍らしき和衣を纏い、腰に二本の刀を提げた青髪の男「オウガ」は大きな籠を片腕で抱える傍ら、商人らしきフードを羽織っている褐色肌の若き女性「ネア」も荷物を抱え、ブロンズ色に帯びた獣の耳をピコピコと揺らしながら彼と話しては豪快に笑っている。

 ふたりの後ろに、桜色の長髪が目立つ麗人「エシラ」と、菫を思わせる髪色の淑女「シェルフィー」がついてきている。


「やったぁ! おなかすいてたんですよー」

 ばんざいしたイノは笑顔になる。とてて、と彼らのもとにかけつけたファイが、籠持ちを手伝おうとした。

「お、やっと飯か。パンに林檎に肉、まぁこんな有様だし仕方ねーか」

「わざわざ一泊住まいのあたしらにくれたんだから、感謝くらいしなさいよ。それを持ってきたあたしらにもね」

 物色しては口を尖らせたシードに、シェルフィーは腰に手を当ててツンと言う。彼女の足元は地面から離れており、ふわりと浮いているのも、天人族カーレストならではの為し得ることだろう。その理屈は誰もわからない。

「うるせぇな、そんくらいわかってるよ」とシードは言い返す。

「ん? エンデとゼクロスはいない感じ?」

 そう訊いたのはネアだ。腕を組んでは活気ある鋭い目で周囲を見回す。

「さっきいたのですが、それぞれどこかに向かわれたみたいで」

 ファイが困った様子で答える。それをなだめるようにオウガは腰に提げた刀の柄に腕を乗せ、気前よく笑った。


「案じなくともあの陰険組は直に戻ってくるじゃろ。何はともあれ、最悪の事態にならんくてよかったわい。死人もおらんきに、無事が一番じゃけぇ」

 老いてなくとも独特な口調で話す彼は、地面に置いた籠から林檎を手に取り、一口かじる。「お、これうまよか、皆食うてみ!」とますます機嫌よくなって、かじったリンゴを見せつけた。みずみずしい果実は太陽で白く輝いているようにもみえる。

 しかしエシラは腕を組んで顎に指を添えた。その声は清らかな川の流れる音のように静かで、凛としている。


「そうね。さっき村の人に訊いてみたのだけど、これほどまでの地震は今までに一度もなかったらしいわ」

「災害の記録更新なんてどこの世界でも珍しくないだろ。この肉生でもいけんのか?」

 シードが訝しげに摘まんだ干し肉を見つめながら言う。

「うん、ちゃんと処理したから大丈夫だって言ってたよ」とメルトはパンを飲みこんでからシードに顔を向けた。隣に座っているイノはメルトからもらったそれらをもう食べたのか、うとうとしていた。

「地震も何も、あの揺れ方は自然のものと違ったぜ。爆音も聞こえたし、向こうに煙も見えたしよ」

 リオラはそう言い、大きめの肉をぱくりと食べる。

「流石『地獄龍』や。地獄耳や千里眼も伊達じゃないわ」

 そうオウガはけらけらと笑うも、リオラはめんどくさそうな目を向けるだけ。

「やっば、意図的なものってことじゃん」とネアは目を輝かせて興味津々だ。反面、関わりたくなさそうな顔をシェルフィーは浮かべていたが。


「そういうことになるわね。ゼクロスもそれに気が付いて調べに行ったのだと思うわ」とエシラ。

「まぁめんどいことはあの解析大好きサイエンティストに任せればすぐにわかるだろ。ていうか起きろ寝坊助」

 シードはそう言いながら、再び手刀で寝付いているイノを叩き起こす。

「……ふぁっ? あれ、もうお昼ご飯の時間ですか?」

「認知症のおじいちゃんかあんたは」とシェルフィーは腕を組む。

「おかわりならあるよ」とメルトはイノの隣に座ってはパンを手渡した。いい介護師になれそうだとネアは笑った。

 

「あー、みなさんここにいたんだね」

 そう言ったのは、黒い団服を身にまとう黒髪の青年「エンディア」。感情がすっぽ抜けたような顔は何を考えているのか(イノくらいしか)わからない。

「おかえりー」「ほはえひなはい」と、メルトとパンを咥えたイノが同時に言う。

「おまえはおまえでなにしてたんだよ」

 そうシードが訊くも、エンディアが手前に腕を出す。そこには手提げの籠いっぱいの果実と野菜だった。

「食料かっぱらってきた」

「なにしとんじゃボケ」

「む、向こうの人たちも食べるもの限られていますから……」とファイも困り顔。

 エンディアは無表情のまま、皆の前に置いてある籠の中身を見、

「えーなんだぁ、もうあるんだ。じゃあ返してくる」

「あ、それ僕頂きます」

「イノさんは今日も食いしん坊だね。傲慢なの自覚してる?」と真顔で言いながらあっさりと両手を前に伸ばしたイノに籠をぽんと渡す。

「いいから返してこい!」

「まぁまぁ別にいいじゃないか、こういうときだけ善人なエンジニアさん」


 シードがその声を聞いた途端、苦虫を嚙み潰したような表情に切り替わる。振り返ると、長身のオウガと同じぐらいの背の高さだが、体格の細い黒紫の髪の美男「ゼクロス」が見下していた。

「素直に名前だけ言えばいいってのに、なーんでそう皮肉に言うんだか。なぁ腹黒死神さんよぉ」

「推定した震源地へ行ってきたんだけど」「おい、無視か!」

「リオラも気づいてるだろう、これは自然災害ではなく、人為的に引き起こされた大爆発による二次災害だとね」

「そんな大袈裟にいわなくてもわかってら」とリオラ。それを軽く流したゼクロスは皆の前にホログラムを展開させる。現実世界でも自身の電脳物質を出力し、様々な物質に変換できる力は、自身の視覚的記憶を空間に浮かぶ映像へと投影させた。

「うわぁ……」という声が聞こえてくるほど、甚大な被害だと把握したようだ。緑一色の大地に巨大な穴が空いている。


「爆心地は見事までに悲惨極まりなくはない程度に凄惨だ。まるで隕石でも墜ちたかのような大穴がぽっかりとね。当然、地脈も破壊、底は間欠泉や溶岩があちこちで湧き出てたよ。半径、落差共に5km程の爆発規模だ」

「温泉できますね!」とイノは楽しげに言う。「お、そりゃあええのう」とオウガも乗るが、「そういう気楽なもんじゃないわよ」とシェルフィーが呆れて返した。

「へぇ、そこらの兵器とは格が違うな」

 シードがほう、と関心する。兵器開発を生き甲斐にして生業とする彼にとっては対抗心溢れる内容だ。

「でも何のためにそんなことをしたんだろ?」とファイは疑問に思う。

「そこの物質を鑑定したけど、爆薬の類ではないね。地盤の層を見ても、発生地は地中でなく地表付近だ。もちろん、放射性も魔力もない。まるで時空を裂けて出てきたような現象だね」

「それってなぞなぞですか?」

「"世界瑕疵ワードエラー"の可能性も否定できないわね」

 イノの言葉は無視され、学者肌のエシラはそう意見する。しかし「それを決定づける根拠がないけどね」とゼクロスは公平な目で返した。

 あらゆる世界群を構築する森羅万象は「神王伝史」という一冊の原典によって記号ワード化されており、記録・管理・組織化の役割を果たす。常に更新されるも、自然的な現象、あるいは行動するだけで絶大な影響をもたらす神々の動向によって瑕疵エラーが発生することがある。これが時空の亀裂や新たな法則性をもたらしたり、その世界の人々の運命や歴史を覆すこともあるという。

 その現象を応用して様々な「旅人」が生まれたわけだが、イノたちはその瑕疵を修復する活動も行っている。それが、神王伝史を見つけ出す手掛かりになるためだ。


「あそこ見渡す限り平地だったし、兵器実験とかじゃねーのか」

 そうシードがつぶやいたところで、メルトが訊いた。

「それってここからどのくらいあるの?」

「大体280 kmだね」

「そう遠くはないわね」とシェルフィーがふわりと宙に浮いたままうつ伏せで寝そべっている姿勢から腰を落とす姿勢へと変える。彼らが乗る「旅船」ならばあっという間だ。今はシードとエンディアの技術のもと、隔離空間内で格納されているが。


「……あの、旅団のみなさん」

 彼らに声をかけてきたのは二人の村人だった。ひとりは布を頭に巻いている壮年、もう一人は茶髪の青年だった。

「なんでしょうか?」

 メルトが笑顔で応える。人当たりのいいその愛嬌さにふたりは一瞬見とれてしまうも、すぐに色を正した。

「あ、いや、先程は手伝ってくれてありがとうございました」

「いえ全然。困った時はお互い様だとお決まりの言葉を添えてもつまらんのでここは

偉そうに――」

「――する必要性がどこにある」

 エンディアの言葉をシードは遮る。

「それに、すいません。折角ここに寄っていらっしゃってくれたのに、まさか地震がおこるなんて……」

「いやいや、災害は仕方なかろう。何故おまんらが謝るんや」とオウガは苦笑する。

「あ、朝食、分けてくれてありがとうございます。籠はどうすればいいですか?」

 たどたどしくファイは籠を持ち、茶髪の村人に訊く。


「籠は私が持ちます。あの、旅団のみなさんは次の行き先はもうお決まりですか?」

 その質問に何人か顔を見合わせる中、ゼクロスが対応した。

「次は南西イヴァル地方のセイシアの街に向かうつもりです。先ほどの地震の震源地から最も近い場所にありますので」

 すると、ふたりは真っ青な顔をし、

「あの街へ行っちゃダメだ!」

「……っ?」

 険相な表情のまま、布を頭に巻いた男が話し出す。

「あ、あの街は……呪われているんです」

「詳しく、その話を聞かせてくれませんか」

 ゼクロスは物腰柔らかに尋ねる。茶髪の男は頷き、口を開く。


「一年くらい前から突然、あそこで人が急に失踪する事件が発生したんです。それも、一日に一人、老若男女問わず、必ず一人、一晩明けたらいなくなっているんです。旅人もその街で消えた話もありました」

「おお、そりゃ怖いね」とネアは両手を後ろ頭に回す。いかにも楽しそうな顔だ。

「ネア、深刻な話よ」とエシラが咎める。「その原因は?」

「明確なのはありませんが、街の人は口揃えて『海の魔女』の仕業だと……」

「『海の魔女』……『セイレーン』のことですか」

「おそらくは……」

「『セイレーン』って何?」

 メルトが尋ねる。代わりに世界を把握する元管理者エシラが答えた。

「第32から84の世界群の神話に登場する海の怪物のことよ。上半身が人間の女性、下半身が鳥の姿が一番知られているかしら。海の航路上の岩礁から美しい歌声で航行中の人たちを惑わして、遭難や難破に遭わせるといわれているの。半人半鳥じゃなくて半人半魚の怪物だという説もあるけど」

「あ、それどこかで聞いたことがあるかも」メルトは思いついたように言う。彼女の生まれ故郷でもある電脳界エレイルオームはありとあらゆる世界と接続されているため、情報量は天文学的だろう。


「それを見かねた首都から調査隊が派遣されたようですが、原因もわからないようで……その人たちも無事に帰ってこれた話は聞いていません」

「意外と情報ネットワークしっかりしてんのなここ」とシードが一言挟む。

「じゃあそこの人たちをその国に移住させればよかったじゃない」

 シェルフィーが軽口を放つ。だが、村人の表情は曇ったままだ。そう簡単な話でもないのだろう。

「先日、セイシアから逃げ出してきた者がここにきたこともありましたが……"誰一人、あの町に行ってはならない。逃げてはならない。魔女の声が海に連れて行く"と。その者は次の日、この村からいなくなっていました。彼を乗せていた馬と荷物を残して」

「おいおいそれまじかよ」とシードは身震いする。怖いものが苦手なファイも「ひぃ」と小さい声を漏らし、青ざめていた。動物は対象外なんだねと冷静なエンディアをよそにネアは眉をひそめ、

「てことは何? 一度入ったら呪いにかかって出ようとしたら消されるってこと?」

「さ、最近の話をする限りは」と青年。

「それ以来、セイシアは呪われた街として私たちや国の人々は誰一人、あの街へ行くことは禁じられているんです。いえ、行こうとはしないんです。入ったら最後、もう抜け出すことはできませんから」

 村人の声は半ば震えていた。温かいはずの風が少しだけ冷たく感じた。


「聞く限り嘘じゃないみたいだけど、ほとんど人から聞いた話だからねぇ」

 ゼクロスは指を口元に添え、視線を落とす。

「自慢する読心術や推理でわかることはそのぐらいか?」

 シードはにやにやと皮肉を込めて言う。しかし無視された。

「まずは、そこへ行くのがベターだね。物語の真実は必ず現地にある」

「ほ、本当に行くんですか?!」

「行くも何も、そこまで説明されたら行って下さいと仰っているものでしょう。違いませんか?」

 ゼクロスは口元に笑みを浮かべる。その表情は少し不気味だった。

「あ、いえ、私らはどれくらい危険かを知ってほしかっただけで……」

「危険なほど、そこへいきくなるのが旅人のさがってもんじゃき。のぅイノ先生」

 オウガはにかっと笑う。しかし、そこに白髪頭の姿はなかった。


「あ、イノさんさっきからずっと居なかったよ」

 あっ、と一同もようやく気付いた模様。顔を大きな手のひらでぱちんと当てたオウガは深いため息を一つ。

「……やられた。エンデ殿、いつ気が付いた」

「『海の魔女の仕業だと』あたり」

「あのアホンダラ、一回見失うたら探すの大変なんじゃあやつは」

 1つ結いの紺の短髪をがしがしと掻く。

「出発すればいつのまにかそこにいるのがイノだ。俺たちは旅支度をさっさと済ませていけばいい」

 リオラは冷静に嘆くオウガの肩を叩く。イノという人間と一番付き合いが長いからこその対応だろう。

「じゃ、まず村長に会って別れの挨拶でもしようよ」

「さっすがメルト、そういうところはきっちりしてる」

「シードさんが非常識なだけ」

「……おまえなぁ」

「ふふ」

「なはははは、出ましたっ、エンデの毒舌」

「ファイ、ネア、笑ってんじゃねぇよ」

「ということで、お二人方、貴重なお話をありがとうございます。あぁ、必要な資材と食糧は広場に積んでおきました。ひと月はもつかと思います」

 ゼクロスは微笑むが、村人は不安そうな顔のままだ。なにか言いたげな彼らに構わず、一同はその場を後にする。

「ま、待ってください! こ、こんなによくしていただいたのに……本当に危ないんですよ? 命を失うかもしれないんです。それでも、い、行くんですか?」

 その言葉に応えるように、全員が村人を見、そしてリオラはわずかに微笑んで言った。

 どんな境遇でも楽しむ、あの白髪の旅人のように。

「死ぬのを恐れてたら、旅なんかやってられるかよ。命を掛けるからこそ、世界が視える。それが旅人ってもんだろ?」


 彼ら旅人の名は「イクシード」。

 あらゆる世界を渡り、あらゆる時代を越え、世界の「瑕疵」を修正する者。

 誰よりも自由を望み、愛する者。

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