第2話:人間って、ホントにムカつくよな!
まだ段取りは、何も出来ていない。
ビキビキビキ!!
俺は先ほどの電話を思い出し、怒りが湧きかえる。
(だが今のところ、他に方法が見当たらない……)
引き出しから、異世界電話帳を出した。受け入れてくれそうな世界を探す。
(……ここは、この前送ったな……こっちも、すでに送ったことがある……ここなら……いけるか?)
俺はめちゃくちゃ憂鬱な気分で、異世界電話をかけた。
「あ、もしもし。私は地球担当の、フレッシュと言う神です。イーセカイ担当の神様ですか? 実は、折り入ってご相談がありまして。え? 今忙しいから、後でかけ直す? 失礼いたしました。よろしくお願いいたします」
ガチャッ。
やっぱり、どこの世界も忙しいらしい。
(はぁ……電話待つのもストレスたまるんだよな)
パシューーーン!
魂が来てしまった。見なくてもわかる。今度も、百億パーセント日本人だ。
「うわあ! トラックが! …………って、あれ? ここはどこ?」
(ほらみろ)
頼りなさそうな男が、きょろきょろ部屋の中を見回している。男の頭上に、名前が浮かんだ。
(ケッ、バカそうな名前だ)
しかも『神』とついてるのが、さらに腹立たしい。
(いつも同じような奴が来るのは、なんでなんだぜ?)
こいつらは、決まって似たようなシチュエーションで死んでいる。トラックにはねられた、強盗に刺された、バナナの皮で滑って転んだ……。
「も、もしかして、ここは……異世界?」
「ウウン!」
咳払いすると、ようやく俺の存在に気が付いた。
「私は地球担当の神、フレッシュだ」
「え? 神様? なんだ、女神様じゃないのか……はぁ」
ビキビキビキ!!
(なんだ、この偉そうな人間は!)
男はいっちょ前に、ため息をついている。だが、仮にも俺は神だ。こんなことで、心が揺らぐことはない。さっさとムカつくこいつを、異世界に送ってしまおう。嫌な仕事は、早く終わらすに限る。
「……お前の偉そうな態度は、とりあえず目をつぶるとして。まず、私に言うことはないか?」
男は、ポカンとしている。少しの間をおいて、遠慮がちに言った。
「えーっと……異世界転生のほど、よろしくお願いします?」
「ちげーよ!!! 勝手に死んでごめんなさい、だろうが!!!」
俺は思いっきり怒鳴りつけた。
(ちょうどいい。こいつで日頃のストレスを発散してやる)
「お前らが!!! 予定表にない!!! 死に方をするから!!! こっちは!!! 散々な目に遭ってるんじゃ!!! こんちくしょう!!!」
「ひいいいいいいいいいいいい!」
しこたま怒鳴りつけてやった。男はプルプル震えている。
(ふぅ、スッキリした。ざまぁみろってんだ。調子に乗りやがって)
「あ、あの、神様はどうして……そんなに怒ってるんですか?」
俺は怒りのボルテージがある程度下がったので、質問にも答えてやる。
「お前らはなぜか、異世界転生する時に力を得るらしい。しかも、手に入れた力を使って、転生先で大暴れする。そのせいで、異世界の神から私が怒られるのだ」
「へ、へえ~、神様も大変なんですねえ」
「さらには、天界からも目を付けられている。このままでは、神をクビになるかもしれん」
(クビにされるのは、それはそれでムカつくんだよなぁ)
とそこで、イアドルちゃんがやってきた。お茶とお菓子を、お盆に乗せて持ってきてくれた。
「フレッシュさん、大きい音がしましたけど、何かあったんですか?」
「いや、何でもないよ。ありがとう。イアドルさんは、いつも優しいね」
(チッ、このクソ野郎がいなければ、最高の時間だったのによぉ)
イアドルちゃんから、お盆を受け取る。さりげなく、指と指がぶつかった。俺はドキッ! とする。
(よし、決めたぞ! こいつを異世界に送ったら、イアドルちゃんに告白するんだ!)
しかしそこで、致命的な出来事が起きた。
『神兄ちゃま、電話だにょ~ん。早く出ないと、プンプンしちゃうぞ~』
シーン…………。
(……は?)
意味不明なことに、このタイミングで異世界電話が鳴ってしまった。イアドルちゃんが、この呼び出し音を聞くのは、無論……初めてだ。
「……あ、すみません。私ちょっと仕事に戻りますね」
「ち、違うんだ! これは、私の趣味じゃなくてっ!」
イアドルちゃんは、そそくさと帰ってしまった。彼女の好感度が下がったことは、間違いない……。
(さ、最悪だ)
「神様って……気持ち悪いですね」
「お前のせいだあああああ!!! どうしてくれるうううううう!!!」
ガッ!
俺は男の首を締め上げる。
「かはっ……ちょっと、やめてください! 大人げないですよ!」
「責任とれええええええ!!! ぶっ殺してやる!!!」
「か、神様……! 電話に出なくて……良いんですか……!?」
男の声で、俺は我に返った。
(そうだ、まずは異世界電話に出ないと! こいつをぶちのめすのは、その後でも良い)
「チィッ!」
ドガッ!
「いて!」
俺は男を放り出した。慌てて異世界電話を取る。
「も、もしもし、お待たせしてすみません! 地球担当のフレッシュです。……え? 手短に話せ? はい、それはもちろん! ご相談ですが、予定表にない死者の魂が来てしまいまして……大変申し訳ないのですが……そちらの世界に送ってもよいかと……ダメ? ……私も困っておりまして……そんなの知らない? いや、そこをなんとか」
「■◇?■※◇▲※※〇▲□●☆※●☆▲!★▲!◇□◇?◎!!!!」
「どうか、最後まで話を……!」
ガチャン!!!
電話を切られてしまった。男は相変わらず、その場にいる。
(俺、何やってるんだろ)
急に、あらゆることがバカらしくなった。神とか出世なんて、どうでもいい。俺は死神になってやる。
ガサゴソ、シャキン。
ロッカーから、大きな鎌を取り出した。
「か、神様……? どうしてそんな、物騒な物を持ってらっしゃるんですかね? ……じ、冗談ですよね?」
(もう、どうなってもいいや)
この男を殺して、俺も死ぬ。男にジリジリと近づいていく。
「ま、待ってください!」
「死ねええええええええええええええ!」
俺は男に向かって、大鎌を振り上げた。
(さようなら、イアドルちゃん。俺は死神になるよ)
首を切り落とす直前、男は大声で叫んだ。
「ぼ、僕と一緒に、転生者を懲らしめに行きませんか!?」
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