第2話:人間って、ホントにムカつくよな!

まだ段取りは、何も出来ていない。


ビキビキビキ!!


俺は先ほどの電話を思い出し、怒りが湧きかえる。


(だが今のところ、他に方法が見当たらない……)


引き出しから、異世界電話帳を出した。受け入れてくれそうな世界を探す。


(……ここは、この前送ったな……こっちも、すでに送ったことがある……ここなら……いけるか?)


俺はめちゃくちゃ憂鬱な気分で、異世界電話をかけた。


「あ、もしもし。私は地球担当の、フレッシュと言う神です。イーセカイ担当の神様ですか? 実は、折り入ってご相談がありまして。え? 今忙しいから、後でかけ直す? 失礼いたしました。よろしくお願いいたします」


ガチャッ。


やっぱり、どこの世界も忙しいらしい。


(はぁ……電話待つのもストレスたまるんだよな)


パシューーーン!


魂が来てしまった。見なくてもわかる。今度も、百億パーセント日本人だ。


「うわあ! トラックが! …………って、あれ? ここはどこ?」


(ほらみろ)


頼りなさそうな男が、きょろきょろ部屋の中を見回している。男の頭上に、名前が浮かんだ。


異手世いてせ 神也しんや  男  享年16歳


(ケッ、バカそうな名前だ)


しかも『神』とついてるのが、さらに腹立たしい。


(いつも同じような奴が来るのは、なんでなんだぜ?)


こいつらは、決まって似たようなシチュエーションで死んでいる。トラックにはねられた、強盗に刺された、バナナの皮で滑って転んだ……。


「も、もしかして、ここは……異世界?」


「ウウン!」


咳払いすると、ようやく俺の存在に気が付いた。


「私は地球担当の神、フレッシュだ」


「え? 神様? なんだ、女神様じゃないのか……はぁ」


ビキビキビキ!!


(なんだ、この偉そうな人間は!)


男はいっちょ前に、ため息をついている。だが、仮にも俺は神だ。こんなことで、心が揺らぐことはない。さっさとムカつくこいつを、異世界に送ってしまおう。嫌な仕事は、早く終わらすに限る。


「……お前の偉そうな態度は、とりあえず目をつぶるとして。まず、私に言うことはないか?」


男は、ポカンとしている。少しの間をおいて、遠慮がちに言った。


「えーっと……異世界転生のほど、よろしくお願いします?」


「ちげーよ!!! 勝手に死んでごめんなさい、だろうが!!!」


俺は思いっきり怒鳴りつけた。


(ちょうどいい。こいつで日頃のストレスを発散してやる)


「お前らが!!! 予定表にない!!! 死に方をするから!!! こっちは!!! 散々な目に遭ってるんじゃ!!! こんちくしょう!!!」


「ひいいいいいいいいいいいい!」


しこたま怒鳴りつけてやった。男はプルプル震えている。


(ふぅ、スッキリした。ざまぁみろってんだ。調子に乗りやがって)


「あ、あの、神様はどうして……そんなに怒ってるんですか?」


俺は怒りのボルテージがある程度下がったので、質問にも答えてやる。


「お前らはなぜか、異世界転生する時に力を得るらしい。しかも、手に入れた力を使って、転生先で大暴れする。そのせいで、異世界の神から私が怒られるのだ」


「へ、へえ~、神様も大変なんですねえ」


「さらには、天界からも目を付けられている。このままでは、神をクビになるかもしれん」


(クビにされるのは、それはそれでムカつくんだよなぁ)


とそこで、イアドルちゃんがやってきた。お茶とお菓子を、お盆に乗せて持ってきてくれた。


「フレッシュさん、大きい音がしましたけど、何かあったんですか?」


「いや、何でもないよ。ありがとう。イアドルさんは、いつも優しいね」


(チッ、このクソ野郎がいなければ、最高の時間だったのによぉ)


イアドルちゃんから、お盆を受け取る。さりげなく、指と指がぶつかった。俺はドキッ! とする。


(よし、決めたぞ! こいつを異世界に送ったら、イアドルちゃんに告白するんだ!)


しかしそこで、致命的な出来事が起きた。


『神兄ちゃま、電話だにょ~ん。早く出ないと、プンプンしちゃうぞ~』


シーン…………。


(……は?)


意味不明なことに、このタイミングで異世界電話が鳴ってしまった。イアドルちゃんが、この呼び出し音を聞くのは、無論……初めてだ。


「……あ、すみません。私ちょっと仕事に戻りますね」


「ち、違うんだ! これは、私の趣味じゃなくてっ!」


イアドルちゃんは、そそくさと帰ってしまった。彼女の好感度が下がったことは、間違いない……。


(さ、最悪だ)


「神様って……気持ち悪いですね」


「お前のせいだあああああ!!! どうしてくれるうううううう!!!」


ガッ!


俺は男の首を締め上げる。


「かはっ……ちょっと、やめてください! 大人げないですよ!」


「責任とれええええええ!!! ぶっ殺してやる!!!」


「か、神様……! 電話に出なくて……良いんですか……!?」


男の声で、俺は我に返った。


(そうだ、まずは異世界電話に出ないと! こいつをぶちのめすのは、その後でも良い)


「チィッ!」


ドガッ!


「いて!」


俺は男を放り出した。慌てて異世界電話を取る。


「も、もしもし、お待たせしてすみません! 地球担当のフレッシュです。……え? 手短に話せ? はい、それはもちろん! ご相談ですが、予定表にない死者の魂が来てしまいまして……大変申し訳ないのですが……そちらの世界に送ってもよいかと……ダメ? ……私も困っておりまして……そんなの知らない? いや、そこをなんとか」


「■◇?■※◇▲※※〇▲□●☆※●☆▲!★▲!◇□◇?◎!!!!」


「どうか、最後まで話を……!」


ガチャン!!!


電話を切られてしまった。男は相変わらず、その場にいる。


(俺、何やってるんだろ)


急に、あらゆることがバカらしくなった。神とか出世なんて、どうでもいい。俺は死神になってやる。


ガサゴソ、シャキン。


ロッカーから、大きな鎌を取り出した。


「か、神様……? どうしてそんな、物騒な物を持ってらっしゃるんですかね? ……じ、冗談ですよね?」


(もう、どうなってもいいや)


この男を殺して、俺も死ぬ。男にジリジリと近づいていく。


「ま、待ってください!」


「死ねええええええええええええええ!」


俺は男に向かって、大鎌を振り上げた。


(さようなら、イアドルちゃん。俺は死神になるよ)


首を切り落とす直前、男は大声で叫んだ。


「ぼ、僕と一緒に、転生者を懲らしめに行きませんか!?」

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