【異世界転生させる、神様の苦労話】~頼むからそう簡単に、転生できると思わないでくれ!~

青空あかな

第1話:頭がおかしくなりそうだ!

『神兄ちゃま、電話だにょ~ん。早く出ないと、プンプンしちゃうぞ~』


今日もまた、異世界電話が鳴っている。


前任の神が、日本のオタク文化にドハマりしたようで、たまらなく不愉快な呼び出し音にされていた。今すぐにでも変えたいが、非常に強力な魔法がかかっていて、変更できないのだ。しかし、この電話がどんな内容なのか、俺にはわかる。


(もうイヤだ、こんな生活)


俺は恐る恐る、電話に出た。


「も、もしもし……。こちらは、地球担当の……」


「おい、コラぁ! てめえが寄こしてきた転生者が、俺の世界で大暴れしてんだよ! どうしてくれんだ!」


「あ、いや、しかし、私としてもどうにも……」


「〇▲※◇□●☆※▲!▲※※◇□●☆▲!■◇?■◇?◎★!!!!」


「すみません、すみません、もう本当に……はい……はい……二度と送って来るな……はい、わかりました……この度は、本当に申し訳ございませんでした……」


ブチッ!!!!! ガチャン!!!!!


憎たらしげに、電話を切る音が聞こえた。俺はいつものように、暗い気持ちに支配される。


(神辞めてえ~)





俺は、新米神のフレッシュ。ようやく憧れの神になれたのに、地球とかいうクソ田舎に飛ばされた。


そのうえ、いつからか予定表にない死人の魂(日本人)が、俺の元へ来るようになった。天界に相談しても、「予定表にない死は扱わない」との一点張りで、らちが明かない。俺は考えに考え抜いて、ある秘策を思いついた。


それは、異世界に送ること。しかし、これが大きな失敗だった。どうしたわけか、彼らは転生するとき、強大な力を得るらしい。そのせいで、転生者は異世界でやりたい放題だった。


「こっちだって困ってんだよ、コラぁ!」


スローライフを満喫するのは、まだいい。しかし、チートスキルだとか最強ジョブだとかで無双しまくっては、異世界のバランスを狂わしているのだ。世界のほころびの修理は、その世界の神の仕事。ただでさえ忙しいのに、他所から来た奴が仕事を無限に増やしていく。おわかりいただけるだろうか?


「だけど、どうしようもねぇんだ!」


おまけに、俺は天界からの立場も悪くなっている。異世界の神から、クレームが何件も入ってるようだ。このクソ世界に飛ばされたのが、運の尽きだった。


「俺だって、好きで地球なんかに来ねえよ!」


神の世界で出世するには、スタートダッシュが超重要だ。一度出世コースから外れた者は、ずっと窓際族だ。


だがしかし、俺は内心、喜んでいた。このクソ辺鄙なところにも、花は咲いているものだ。それは……。


パタパタパタ。


「フレッシュさん。大丈夫ですか? 何か大きな音が聞こえましたけど」


みんなのアイドル、事務天使のイアドルちゃんだ。小柄な体型、不釣り合いに大きい胸、つぶらな瞳、背中にある可愛い翼。俺はとたんに、デレッとしそうになる。しかし、すぐに真面目な顔に戻った。


「イアドルさん、ありがとう。また転生者が、問題を起こしているみたいなんだ。異世界の神様から、こっぴどく怒られてしまったよ」


「えぇ~、またですかぁ?」


「全く、本当に困るね」


「フレッシュさんはお優しいから、きっと行き場を無くした魂が寄ってきてしまうんです」


「イアドルさん……」


この天使こそ、本当に優しい。もはや女神と言われても、おかしくないくらいだ。


「私もフレッシュさんみたいな、真面目な神様が上司で良かったです」


「そんな……」


俺はいつか、イアドルちゃんと結婚すると決めている。こんな良い子を、他の神なんかに渡してなるものか。この劣悪な環境で、彼女だけが唯一の希望だった。


「フレッシュさん、ずっと私と地球を管理してくださいね」


「え? イアドルさん、それはどういう……」


「フレッシュさん……私……」


俺たちの間を、甘酸っぱい空気が流れる。何となく、良い雰囲気じゃないか。


(も、もしかして、これは……!)


「あっ、すみません。私ったらボーっとしちゃって。板挟みになって、フレッシュさん大変です。後でお菓子持ってきますね。では、私は向こうで書類作業してますので、何かあったら呼んでください」


俺は心を打たれて、泣きそうになる。


(なんて、優しいんだ。彼女に慰められるために、神をやってるようなもんだ)


イアドルちゃんの後ろ姿を、俺はこっそり見る。


(……良い尻だ)


『トゥイン、トゥイン、トゥイン、トゥイン、トゥイン! 予定表にない死者の魂が来ます!』


「はああああああああああああああああああああああああああああああ!!」


俺は思いっきり、クソデカため息をつく。至福の時間は、一瞬で終わった。いつものように、“転生希望者来訪ベル”(俺が名付けた)が鳴り響いている。窓の外を見た。


(アハハ、良い天気だなぁ)


俺は今日も、ストレスで死にそうだった。

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