第42話

「くくく、そうか。そうか」

 

 目の前のエルダーヴァンパイアは笑い声を漏らす。


「人間の味方をし、吸血鬼を狩る裏切り者、変わり者。あいつが言っていた男はお前のことか」

 

「君の言っているあいつが僕の知っている奴ならそうだね」


「なるほど……ただのヴァンパイアだと聞いていたが、本当にただのヴァンパイア風情だったとは……。エルダーにも至っていないような存在がこれほどまでの力を……くくく」


 エルダーヴァンパイアは笑い声を漏らし続ける。


「一体どれほどの人間を自分のものとした?一体どれほどの人間を吸ったのだ?」

 

 笑い声を一転させ、エルダーヴァンパイアは僕を思いっきり睨みつける。

 その言い草はまるで吸血鬼を断罪する正義のヒーローみたいだ。人間に仇なすエルダーヴァンパイアに鉄槌を下すのは僕なんだけどね。


「さぁ?1万から先は数えていないよ。……10万は越えているかな?」 

 

「……狂人め」

 

 僕の言葉にエルダーヴァンパイアが、その表情を歪める。


「理解し難い狂人め。何故それほどまでに理性的な……激情の浮かばぬ、壊れた瞳を浮かべない。何故平然としていられる。何故壊れない。何故立っている。……お前が一番の狂人だ。理解し難き化け物だ。吐き気を催す醜悪な化け物だ」 

 

 エルダーヴァンパイアが忌々しいものを、化け物を見るような目を僕に向けてくる。

 吸血鬼でしかないその身で僕を口汚く罵る。

 確かにそのとおりだろう。僕が一番の狂人で、化け物だろう。

 だからこそ僕はここに立ち、前を見ている。


「理解し難い化け物に守護される人類。いかに滑稽なことか。……いかに愚かなことか。俺が滅ぼしてやろう。狂人め。理解し難き狂人め」

 

 エルダーヴァンパイアが膨大な魔力を漂わせて告げる。


「レクス。それがお前を殺す者の名だ。裏切り者のヴァンパイアに、偉大なるエルダーヴァンパイアとして裁きを下してやるよ」


 エルダーヴァンパイアの名乗り。

 それを聞いて僕も異空間収納から仮面と服を取り出し、サクッと着替える。


「異端審問官第二席『特異』」

 

 ノーヌス教会が保有する影の戦力。

 異端審問官。

 異端審問であることを示すその衣と仮面を被った僕は自らを異端審問官第二席『特異』を名乗る。


「この狂人がァ」


 エルダーヴァンパイアが巨大な剣を取り出し、僕に向ける。


「黙れ、人類の敵」

 

 それに対抗するように僕も血の記憶から妖刀を再現し、エルダーヴァンパイアへと向ける。


「「お前を滅ぼす」」

 

 僕とエルダーヴァンパイアは共に大地を蹴った。

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