第39話

 罅隙の装備。

 アウゼスから貰っていた特殊な刀と狐を模した仮面。

 

「和の国の神よ。私に力を」

 

 罅隙の一言。それとともに罅隙の周りを聖なる力が覆う。

 服装も和の国の和服へと変貌する。


 天皇とは現人神である。

 その天皇の力は絶大。

 アウゼスが渡した刀と狐を模した仮面は天皇の血へと働きかけ、その力を活性化させる特別製の武器だ。

 これを手にした罅隙は一時的に巨大な力を手に入れることができる。


「行きます」

 

 冷たい冷気が罅隙から放たれ、距離を詰める。


「こっちは時間かかるわ」

 

 吸血鬼は真面目な表情へと変え、罅隙を見定める。


「ほら」

 

 吸血鬼は血を操作し、罅隙へと向ける。

 しかし、その血は罅隙に当たるよりも前に凍りつき罅隙には当たらない。


「ヤァ!」


「ちっ」


 罅隙の一閃を吸血鬼は上空へと飛ぶことで回避する。


「シッ!」

 

 そんな吸血鬼を、罅隙もまた天上を駆け抜けることで追いかける。

 空気中の水蒸気を凍らせ、足場としているのだ。


「血鬼能力、鳥獣血描」


 吸血鬼は血鬼能力を発動する。

 この吸血鬼の血鬼能力は『鳥獣血描』。血で擬似的な生命を創造する術だ。


「喰らえ」


 鳥獣血描によって描かれた数多の動物たちは罅隙へと襲いかかる。


「無駄です」

 

 罅隙はそれらを一瞬で一刀両断する。

 そしてそのまま吸血鬼との距離を詰め、刀を振るう。

 

「ぐっ」 


 罅隙の刀が吸血鬼の右腕を斬り落とす。

 吸血鬼にとって聖なる力とは毒そのものだ。

 聖なる力によって絶たれた場所はなかなか回復しない。


「面倒な!」

 

 吸血鬼は罅隙の腹に神速の蹴りを差し込む。


「カハッ」


 重い一撃。

 それをまともに受けた罅隙は地面と叩き落される。


「死ねッ!」 

 

 吸血鬼は剣を手に取り、罅隙へと斬りかかる。


「クッ」

 

 罅隙はそれを刀で受け止めた。


「ラァ!!!」


「くっ……」

 

 吸血鬼の力は圧倒的。

 罅隙は吸血鬼の力に押される。


「……ス」

  

 罅隙は力を、剣を受け流した。


「ちっ……」


「ヤァ!」

 

 罅隙は剣を受け流されたことで姿勢が揺らいだ吸血鬼の背中に刀を振り下ろす。


「ゴハッ!」

 

 聖なる力によって斬り裂かれた吸血鬼は大きく体を崩し、地面へと倒れてしまう。

 絶好の機会。

 罅隙は一切の迷いなく刀を握る。


「終わりですッ!」

 

 罅隙が突き出した刀。

 それは確実に吸血鬼の心臓を貫いた。

 

「……ァ」

 

 吸血鬼の体は血となって溶けていく。


「ふぅー。こちらは終わりました!」


 罅隙が全身から力を抜き、ギリアの方を向く。


「危ねぇ!!!」

 

 それと同時に罅隙の耳を貫くギリアの絶叫と、


「あぁ。終わりだ」


 倒したはずの吸血鬼の声が耳を揺らした。

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