第31話

 『分霊』

 それはドワーフたちの特別なスキル。

 それを扱いこなすのは並大抵のことではない。

 

 ギリアは今、ドワーフ王に教えを請いてそのスキルの扱い方を学んでいた。

 その様子を僕と罅隙はぼーっと眺めていた。

 

「『分霊』」

 

 ドワーフ王が手慣れた様子でスキルを発動させる。

 武器が。ドワーフの手に握られている武器が赤く光り、あり得ないまでの力を放っていた。

 ……なるほど。魂の力。……確かにそうだ。他者の魂の力を貪り、利用する吸血鬼の力に少しだけ似ていた。

 

「ふん!」

 

 ドワーフ王は地面へと己が得物を振り下ろし、豪快に大地を破壊させる。


「ふー。俺は普段こんなことはできない。しかし、ドワーフの先祖の力を一部借りて己の武器を強化すればこんなことが出来る。『分霊』は自分を強化することが出来ないが、武器を強化することが出来る」

 

 本来。

 一つの生命に一つの魂しか入らない。そういう風に器が作られている。

 しかし、吸血鬼は別。その器は無限。

 いくらでも他者の魂を取り込むことができる。

 だからこそ吸血鬼は別格なのだ。

 ……そんな吸血鬼に対抗するため、魂を武器に入れるとは……よくもまぁ考えられたものだ。


「お前の魂は先祖の魂に認められた。後はその魂を下ろす強力な意思とその魂の思いを受け止め、操作する力が必要となる。ほら。やってみろ」


「おう!」

 

 ギリアはドワーフ王の言葉に従い、自分の得物へと意識を向ける。

 ……。

 …………。

 沈黙。

 長い長い沈黙。しかし、降りるのは沈黙ばかり。

 魂は降りてこない。


「気合だ気合だ気合だ!」


 沈黙を破るようにドワーフ王が叫ぶ。


「おうともさ!うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 それにギリアは答える。

 ドワーフ王とギリアは誰かを思い出しそうになるくらいに熱く、盛り上げていた。

 さっきまでの沈黙はどこにいってしまったのか?


「ふわぁ」


「いい天気だなぁ」


「ですね」

 

 気合たくさんの二人を対称的に観戦している僕たち二人は気が抜けていた。

 ……ドワーフと飲み比べした日の記憶がない。記憶のないその日から若干罅隙が優しくなっていた。

 ……僕が一体何を話したのかは怖くて聞けていない。

 自分が吸血鬼であることは言えないから平気だけど。


「脳筋ですね」


「だねー」

 

 平和な日々が続いていた。

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