第25話

 ギリアと罅隙は呆然と一人ミノタウロスと戦うアウゼスを眺める。

 血を操り、雷を纏って刀を用いて戦うアウゼス。

 その様はまるで吸血鬼のようだったが、アンデッド特有の死の気配は纏ってない。

 人の身でありながら吸血鬼のように戦うアウゼスは……異質極まりなかった。

 

「すごい……」

 

 ギリアが一人つぶやく。

 強いことは知っていた。だが、一人でミノタウロスと戦えるほどだとは思わなかった。

 聖女の誰も、勇者も、彼に勝てる未来が見えない。

 いずれ来る脅威に対抗するために存在している勇者と七人の聖女。

 しかし、こんな弱い私たちがそんな脅威を相手に勝てるのか、アウゼスを越えられるのか……。

 なるほど。

 ギリアは勇者が悩む理由がわかった気がした。


「……当然です。あの人は一人で内戦を終わらせた人物なのですから……」


 罅隙は当たり前だと言わんばかりに話し、アウゼスとミノタウロスの戦いを眺める。

 アウゼスの言う通り、勝利するための弱点を見つけるために。

 そんな罅隙を見てギリアも頭を悩ませる。


「……第一の試練。そこで試されるのは強い精神力。第二の試練。そこで試されるのは鍛冶能力と仲間を信じる心。……第三の試練は純粋な武力。……純粋な武力を図るだけでいいのならばわざわざ第二段階なんて作らないで、最初から全力でやらせたほうが純粋な武力は図れるでしょう……」

 

 罅隙は今までの試練を思い出す。

 ……純粋な武力だけを見るのであれば一度で良いはずだ……。

 いや……それも思い違いかもしれない。スタミナも考えて戦わない奴は意味が無い……という意図なのかもしれない。


「なるほど!」

 

 罅隙のつぶやきを聞いてギリアが納得が言ったように頷く。


「今行われているのは今までの試練の統括なのか!」


「……ッ!?」

 

 ギリアの大きな声に罅隙は衝撃を受け、顔を上げる。


「一番目の試練の強い精神力!それは……さっきまで戦っていた強敵以上の存在が現れても恐れず、勇敢に前を向いて戦えるかどうかです!二番目の試練の鍛冶力と仲間を信じる心は……ですから……!」

 

 罅隙は目線をミノタウロス走らせる。

 ミノタウロス本体を……この闘技場内で変わったことを。

 

「あ……」

 

 罅隙は空を見上げ、ぽつりとつぶやく。


「倒した方、わかったかも知れません」


「本当か!?」

 

 罅隙の一言にギリアは驚愕の声を上げて、視線を罅隙の方へと向けた。

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