第24話

 以前よりも増して大きくなったミノタウロスの巨躯。

 肌は赤く染まり、口からは真っ赤な息を吐いている。

 そして、その体からアンデッド特有の死の気配を濃厚に纏っていた。


「吸血、鬼?」

 

 隣のギリアが呆然とつぶやく。


「吸血鬼はあんなものじゃないし、人間以外の吸血鬼はいないよ」

 

 そして僕はギリアの言葉を否定する。

 こんなものは吸血鬼と呼べない。吸血鬼は在り方が他の生物とは何もかもが違う。 

 そして、こいつの在り方は吸血鬼のそれとは違う。

 それに、アンデッドには極稀に人型以外のアンデッドもいるけど、吸血鬼に人型以外はいないからね。

 所詮こいつは体をいじくり回された特殊なミノタウロスでしかないのだろう。


「しばらくは僕一人で戦う」


「え……?」


「はい?」

 

 僕の宣言に二人は呆然とこちらを凝視してくる。


「僕は速度を主とする戦闘スタイルだ。継続戦闘能力も高いし、自分よりも格上の存在が相手でも戦い続けることができる。僕ならあれと戦っていても長く持ちこたえさせられる……だから、その間。僕が戦っている間にミノタウロスの弱点と自分の体力回復に当てて。何時間でも一人で戦ってあげるから」

 

 僕は二人にそう話し、地面を蹴る。

 ミノタウロスの前へと僕は降り立つ。

 ……僕はこのミノタウロスに勝つ方法はわかっている。相手の吸血鬼の成り損ない。どうすればこれを簡単に倒せるか。手を取るようにわかる。

 僕が教える。それでも良いが、それだとみんなが育ってくれない。

 二人で観察し、相手の弱点をちゃんと見つけて欲しい。


「さぁやろうか」

 

 そのための時間ならいくらでも稼ぐ。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 ミノタウロスの咆哮。

 それとともに闘技場内に散らばっていた血が蠢き、僕に向かって飛んでくる。


「『ナイトメア』」

 

 闇魔法。

 僕はそれを発動させる。


 吸血鬼にとっての血。

 血とは記憶、思い、魂そのもの。

 闇魔法は魂を魅了し、我が者とすることが出来る。だからこそ血を自由自在に操ることが出来る。

 吸血鬼ならばどんな存在の血であっても操ることができるが、目の前のこいつはそういうわけにはいかないだろう。

 こいつに植え付けられた闇魔法程度じゃ自分の血を操作するので精一杯。


 だが、僕は違う。

 

 僕は自分、他人の血を操れる。

 吸血鬼のとは比べ物にならぬほど脆弱だが。


「グォ!?」

 

 僕に向かってきたはずの血がいきなり方向を変え、ミノタウロスに直撃する。

 操作を奪ったのだ。僕が。ミノタウロスの血を。


「さぁ、やろうか」

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