第23話

 空は赤黒く染まり、嫌な空気が流れ始める。


「あ?な、なんだ……?まだ終わっていなかったのか?」


「そうだね」

 

 僕はギリアの言葉に頷く。

 顔面が潰され、完全に倒れているミノタウロス。

 確実に絶命したはずのミノタウロスの体がどくんッと一度動く。

 

「ヒッ」

 

 罅隙が小さな悲鳴を上げる。


「罅隙は回復に専念しておいて……多分だけどこいつが完全に起き上がるのには時間がかかるだろうからね」


「は、はい……わかりました」

 

 罅隙は僕の言葉に頷く。


「な、なぁ……何が起きているんだ?ふ、復活するようなら先に……」

 

「これは試練なんだよ?」


 動揺し、言葉を綴るギリアに向かって僕は簡潔な一言を向ける。

 この一言が全てだ。


「一度倒したと思ったミノタウロスがより強大となって復活する。そんな絶望にも負けず、みんなで協力して最後まで諦めずに戦い、勝利する。それが試練だ。ずるなんて許されるわけがないでしょ?僕たちに出来るのは目の前のショーを楽しむことくらいだよ」

 

「そ、そうか……」


「うん。そうだよ。それが全て、だよ」

 

 僕は大人しく視線を送るようになったギリアを見て満足気に頷き、壮大な演出を眺める。

 赤黒い空が渦巻き、雲は高速に眺めていく。

 雷が鳴り響き、大雨が降り注いでくる。

 水滴が容赦なく僕たちを叩き、体温を奪っていた。

 

 ギロッ

 

 空に浮かんでいた太陽が……一つの巨大な瞳となって地上へと視線を送った。


「「……ッ」」


「🎶」

 

 それに対して恐怖し、驚愕している二人とは対象的に僕は楽しげに目の前の現象を楽しんでいた。


「来るよ」

 

 小さな僕の一言、それを聞いて二人の空気が引き締まる。

  

 ドクンッドクンッドクンッ

 

 あまりにも大きすぎる心臓の音がミノタウロスの方から聞こえてくる。

 肌が赤く染まり、その巨体が盛り上がってくる。

 斬り落としたはずの足は再び生え、陥没した顔も徐々に復元してくる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 未だ背を地面につけたままの状態で空気を震わせる大きな声をミノタウロスは上げる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 跳ねる。

 ミノタウロスの体が。

 雷に打たれ。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 跳ね上がったミノタウロスは大地を二本足で踏みしめ、体を震わせる。


「シュハァー」

 

 ミノタウロスの口から真っ赤な息が漏れでる。


「ふふん」

 

 僕はそれを見て楽しげに笑う。

 ラウンドツー。

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