第20話

 どろどろに溶けていく魔物たちの死体。

 溶けゆく死体は赤い液体となって流れていく。


「危ないよー」


 不気味に光る赤い液体を前に動揺しているギリアに僕は声をかける。あのままあそこに突っ立ているのは自殺行為に他ならないだろう。


「お、おう!」

 

 ギリアはその場から逃げるようにこちらへと走ってくる。


「な、なんなんだ?あれは?」


 僕たちの方まで逃げてきたギリアは僕に向かって疑問の声を投げかけてくる。


「ん?別に意味なんて無いと思うよ。ただの演出だね」

 

「……は?」

 

 僕の平然とした答えにギリアはアホ面を晒す。


「……え?」

 

 ついでに罅隙も。


「つよつよのボスが登場するまでの演出だよ。こういう演出があったほうが面白いだろう?」

 

 赤い液体は一つの大きな魔法陣を形取る。

 光り輝き続ける赤い液体は魔法陣として完成された時、さらに光り輝き始める。


「……来たね」


 魔力が吹き荒れ、煙が上がる。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 大きな咆哮が煙を散らし、一体の怪物が姿を現す。

 牛の頭を持ち、人の体を持つ怪物、ミノタウロス。

 頭より生える巨大な角は万物を貫き、強靭な肉体はどんな攻撃であっても跳ね返し、蹄の足は地面を打ち砕く。

 僕5人分くらいありそうなぶっどい両腕はそれぞれ大きなハルバードを握っている。

 

「な、何、あれ……」


「僕たちがこれから戦い、滅ぼす相手だよ?さぁ、行こうか。鎖ももうすぐ絶たれる」

 

 ミノタウロスの両手、両足は鎖に繋がれていてその場から動くことも、ハルバードを投擲することも出来ない。

 今ならまだただの的でしかない。……だが、ミノタウロスは今その鎖から解き放たれようとしていた。


 ブツンッ

 

 大きく、そして嫌な音。

 そんな音ともにミノタウロスが鎖を打ち破り……


「キャッ!」


「あっぶ!」

 

 無惨に引きちぎられた鎖の破片がこちらへと飛んでくる。

 

「ふんっ」

 

 僕は異空間収納から刀を取り出し、三度振るう。

 あっさりと絶たれた破片は僕たちの横を通り過ぎていった。


「さぁ。みんな行くよ?」

 

 僕は刀を持ち、不敵な笑みを浮かべてミノタウロスへと近づいてく。


「うぅぅぅぅぅ」

 

 ミノタウロスもまた僕を見て低く唸っている。

 

「僕がメイン。罅隙が僕のサポート。隙は僕が作るからギリアが良い一撃をあのミノタウロスへと食らわせてあげてね?」


「おう!」


「は、はい」

 

 僕の言葉に二人が頷く。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 戦いのゴングが鳴らされた。

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