第5話

 僕たちの目的地。

 それはドワーフ王国だ。

 

 ドワーフ王国はファースト王国から少し離れた場所に存在している。

 天然の巨大洞窟を利用して作られた国で、基本的には洞窟の中に引きこもっているためその国の実態はあまり知られていない。

 

 引きこもっている国のため、アンデッドに対する危機感も他の国よりも少ない。

 この世界に存在する大体の国には、滅ぼされた国の難民たちが押し寄せてくるため、その脅威は十分に知っているんだけどね。

 

 ドワーフ王国は鍛冶を得意とする王国なだけはあり、対アンデッド用の武器、道具も多く存在していてアンデッドも潜入出来ないし。

 あの国に潜入出来るのは吸血鬼か、ノーライフキングなどの最上位アンデッドだけだろう。

 

「なるほど……裏でそんなことが行われていたのか」


「そうなんですよ……私も浅池から聞いたときにすごく驚いたんですよ……」


「まぁ驚くわな……アウゼスは想像以上に凄かったんだな!わっはっはっはっは!」

 

 隣に座っているギリアの大きな笑い声が僕の鼓膜を震わせる。

 

 今、僕たちはドワーフ王国に向かうための馬車に乗っていた。

 その道中はギリアと罅隙が仲睦まじく女子トークに花を咲かせ、それを僕が何も言わずにぼーっと聞いているような状態である。


「実力だけじゃなかったんだな……こりゃルトがアウゼスに追いつくのは無理か?」

 

 ……追いついてくれないと困るんだけどね。


「勇者様とアウゼス様にはそんなにも差が存在しているのですか?」


「まぁ、あるな。というか、精神的なものでかなり大きな差がついていそうだな」


 僕よりも精神的に不安定な子はいないよ?

 殺害衝動、憎悪、悲哀、絶望、嫉妬、恐怖、嫌悪、怒り、憂い、不信、自責、罪悪感、悲観、失望、不安、孤独、無気力、空虚感、後悔、苦しみ、葛藤、恥辱、劣等感、鬱。

 上げればきりがない。この世界の悪感情が煮詰められた存在が僕だよ?そんな僕より精神的に劣るものは存在しないと思うよ。

 自分で今、自分が自殺していないことが奇跡だと思うもん。

 

「頑張ってはいるんだが……なんか余裕がないというか、空回りしているとか。元々あれはマリアのことを好いていたからな。それを取られて、嫉妬に狂っているのに、その相手が自分の理想そのもので、それに少しでも近づくために、知れば知るほど自分との差異に気づき、自分の至らなさに絶望し、自分が勇者でいいのかと悩みながら、そんな思いをぶつけるかのように無茶苦茶に訓練しているからな……」


 ……僕のせいやん。

 ちょっとマリアとは距離を取るべきも知れない。

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