第55話

「ふぅー」

 

 僕は流れ込んでくるアルミデウス大司教の情報を精査していく。

 

 その中に存在していた吸血鬼への畏怖と憧れ。

 

 それらは吸血鬼を、僕を憎む数多の感情によって一瞬で押しつぶされる……自分を好きになれるかもしれないと少しだけ期待したのだけど。


「なるほどね。こいつは研究者タイプだった、と」

 

 こいつは予想以上に数多の情報を持っていた。

 ……一番ヤバそうなのは【傲慢】こいつだな。なんか知らないけど、戦闘行為に快楽を得ていやがる。……自分は戦えないのに。

 意味がわからない。

 まぁここらへんの記憶の精査は後回しにすることにしようか。

 

「束縛血界」

 

 僕は吸血鬼としての全てを封印し、人間の姿となる。

 

「よっと」

 

 その後、短刀で自分自身を斬りつけていく。


 ジュッ

 

 血が流れ、汚れていく体を異空間収納から取り出した松明の炎で炙っていく。

 

「よし」

 

 全ての傷を燃やして塞ぎ終えたのを確認した僕は元の場所に戻るべく足を進めた。


 ■■■■■


「アウゼス君!」

 

「ふぐぅ」

 

 僕の体を衝撃が遅い、地面に倒れる。


「大丈夫?大丈夫?怪我は?痛いところは?ねぇ」

 

 僕に向かって体当たりをして、押し倒してきたサーシャは鬼気迫ったようで僕に向かって問い詰めてくる。


「大丈夫!大丈夫だから!落ち着いて!ちょっと退いてほしいんだけど……」


「……あぁ!?ふぁ!?す、すみません……感情が高ぶってしまって……ほ、本当に申し訳ありませんッ!!!」

 

 慌ててサーシャが僕の上から退く。


「別に大丈夫だよ。……いきなりいなくなった僕が悪いんだしね」


「それで?何をしていたんだ?」

 

 剣についた返り血を丁寧に拭いていたミネルバが僕に問いかけてくる。


「いやぁー、二人があの化け物と戦っていたところであのアルミデウス大司教が逃げているところを見つけてね」

 

 僕はミネルバの疑問にそう答える。

 あそこでアルミデウス大司教が逃げてくれて助かった。

 そのおかげで僕がアルミデウス大司教を喰らうことができた。


 僕はもう、ルト、勇者たちの前で吸血鬼の力を使うことが出来ない。 

 闇魔法の一つである記憶操作の魔法は非常に難易度が高い。サーシャはもちろん、ほとんどの吸血鬼が使えないような魔法だ。

 そんな高位の魔法の癖に、ある程度の強さを持った相手には効かないというデメリットを持っている。

 学校生活で成長してしまったルトたちにはもう効かなくなってしまったのだ。

 それ故に、僕が吸血鬼としてみんなの前で戦った時。それは関係の終わりに直結するのだ。


「えぇ!?大丈夫だったの!?」

 

 僕の言葉に対してサーシャは大げさに驚き、狼狽し始めた。

 ……混乱しすぎだよ……サーシャ。

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