第53話
「逃げないでよ」
僕は必死に走る男の背中に向かって声をかける。
狭い道の途中。あの広場の隠し通路。
サーシャとミネルバがキーネだった化け物に気を取られている隙にこいつはあの場所から逃げ出していたのだ。
二人とも気づいていなさそうだったので、わざわざこうして僕が出向いているのだ。
「……ッ!な、何故?」
僕のアルミデウス大司教は僕を見て驚愕の表情浮かべる。
「いえ……。アンゲルス様なら何の問題もない」
空間が裂け、再び二つの腕が姿を現す。
「……それを僕に向けるかね?」
迫ってくる二本の腕。
僕に向かってくるそれは……近づいてくるそれは……僕に触れる。
パンッ
触れたその瞬間。
腕は血の霧となって散り、それらは僕の中に入ってくる。
血を喰らったのだ。何処の誰かはわからない吸血鬼の腕を構成していた血を。
「ちっ……」
僕はその血を味わって、舌打ちを一つ。
何の情報もない。空っぽだ。本物の腕じゃなかったか。血で作られた仮初の腕、いらないゴミ。こんなゴミにはこれを作り出した吸血鬼本体の記憶も、意思も、力も込められていない。
吸血鬼は血を使えば大体のものは作ることができる。
「なっ……なっ……なっ!?」
アルミデウス大司教は僕の様子を見て絶句する。
「な、何がっ!?何をしたっ!?」
信じられない。理解出来ない。
そう言わんばかりの様子でアルミデウス大司教は無様に喚き散らす。
「……僕の体を見てから考えてみようよ。明らかに普通じゃないと思わない?」
僕は血まみれとなってしまった自分の服をひらひらとさせて見せる。
「ッ!?き、傷が……」
「鈍感すぎない?」
僕は率直な感想を告げる。
至るところから出血した僕の体。傷だらけの体は今や、何の傷もない。きれいな体へと元通りとなっていた。
「さて……」
僕はアルミデウス大司教の方へと近づいていく。
「馬鹿な……ッ!あり得ない!なんで吸血鬼がッ!?何故!?何故!?吸血鬼共は今ッ!内戦中のはずだッ!!!」
「ん?別に吸血鬼全員が内戦に参加しているわけじゃないよ?基本的に吸血鬼は気まぐれなんだよ。血さえ飲めれば構わない。それが僕ら吸血鬼なのさ。4分の1くらいの吸血鬼は人間牧場にいる人間の血を飲み、排他的な生活を送っているよ」
「……人間牧場……ッ!!!このッ!悍ましい化け物めッ!!!」
「それを君が言うかい?悪魔崇拝者君?それに君たちだって吸血鬼を扱っているだろう?」
「違うッ!……あれは!あれは……ッ!!!か、ふぐぅ!?」
わめき続けるアルミデウス大司教の顔を僕は掴んだ。
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