第50話

「……マ?」

 

 僕を助けた者。それはサーシャだった。

 え?動くの?動いてくれるの?

 僕は自分を助けてくれたサーシャを呆然と見上げる。

 ……やっぱりここはリアル。ゲームとは違うということだろう。

 

 僕は助かった。避けたり、心臓の位置を動かしたりするこもなく。

 サーシャの疾風の一振りが僕の心臓を狙っていたモノを斬り裂いてくれたのだ。


 僕がどれだけ斬りかかっても一切刃の通らなかったをサーシャは容易くその長剣で斬り裂いてみせたのだ。

 いや、斬り裂くという表現は正しくないのかもしれない。

 闇を纏ったサーシャの長剣は触れた場所を闇へと誘うのだ。


「……だ、だいじょ、大丈夫ですか?」


 サーシャがオロオロとした様子で僕に近づいてくる。

 そして、おもむろにポケットからハンカチを取り出し、至るところから出血している僕の血を抑える。

 僕はその手をやんわりと押しのける。

 別にいくら血を流しても問題はない。血ならいくらでも出せる。

 そんな動作を受けたサーシャは僕の血がべっとりとついたハンカチを異空間収納に仕舞う。

 

「う、うん。なんとか……」

 

 それを見て、僕は笑顔を作って答える。


「ごめん、なさい……。びっくりして……助けるのが遅れ、てしまいました」


「いや、大丈夫だよ。突然自分の師匠があんな姿で出てきたら当然驚くよね……大丈夫なの?サーシャは……」


「大丈夫……じゃない、です。ですが、アウゼス君が死ぬのはもっと大丈夫じゃない、です」


 ……あれ?

 もしかしてこれ……僕好感度上げすぎた?なんか依存してきていない?

 まぁ良いか。どうせすぐに失望してそんな気持ちも冷めるだろう。


「それに、あんなのものはもう……キーネ姉じゃ、ないですから」


 サーシャの表情が歪む。

 泣きそうな表情へと。

 ……しかし、涙は流さない。

 

「殺して救ってあげる。……それが私が最後に……唯一出来る孝行です」

 

 そんな力強い言葉と視線と共にサーシャは長剣を構えた。

 サーシャの回りを薄い闇が覆う。

 暗い闇の中、ただその瞳の光だけは明るく強く光っていた。

 『闇の聖女』。

 サーシャは今、その名に相応しい存在となっていた。

 

「ぐるるるるる」

 

 そんなサーシャの様子に触発されたのかキーネだった化け物は低く唸り声を上げ始めた。その様はまるで獣のようだった。

 頭にある肉塊が震え、音を発している。


「……キーネ姉」

 

 そんな様子を見たサーシャは一筋の涙を流し……拭う。


「必ずあなたを救います」

 

 覚悟を消えた顔つきとなったサーシャが地面を蹴った。

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