第46話
あぁ。もう無理かも。
僕は目の前に迫ってくる禍々しい腕と触手の化け物を見て諦観の意を示す。
すでに立っていることが奇跡とすら言える僕の体はもうすでに相手の攻撃を交わすことはできないだろう。
……人間の僕は今、ここで殺される。
努力はしたのだ。
ただ……その努力は実らなかったけど。
この場での勝利条件。
それはサーシャを覚醒させることだ。
サーシャはゲーム内で最強と言う呼び声が高かった。サーシャが持っている闇魔法と、固有スキルが反則レベルに強かったのだ。
ゲーム上では数多の編成が生まれたが、その編成から闇の聖女が外れることはついぞなかった。
全ての編成の要はどれだけ闇の聖女の性能を引き出せるか。その一点だった。クソゲーである。
ゲームをクソゲーにさせるほどの格別な強さを持っているサーシャならば、この状況でもアルミデウス大司教、触手の化け物を倒して挽回させるほどの力を持っている。正直この場に存在している化け物は全てゲームに出てきた通りの敵でしかなかった。らくしょーである。僕がわざわざ出張ってくるような場面じゃなかった。
ゲームでもそうだった。
勇者であるルトが心を闇に閉ざされたサーシャの好感度を稼ぎ、心を開かせて本来の実力を持って戦わせる。闇の聖女編だけギャルゲーだったのだ。
僕は相手の感情を手を取るように把握できる。僕はどんな感情であっても演じて見せる。
しかし、僕は何故人がそんな感情を覚えるのか。それを理解出来なかった。
「あぁ」
そんな僕がギャルゲーをクリアするとか無理難題でしかなかった。そもそも僕はサーシャとそんな深い関係なんて築いていないし。こんなのは勇者の仕事だし……。
「……殺すかぁ」
僕はサーシャに聞こえないようにポツリと呟く。
ここで殺された後、僕は吸血鬼らしく復活する。
吸血鬼らしく復活……その時僕に残されている選択肢は3つ。
まず一つが吸血鬼として復活してこの場にいる者全てを殺す。
二つ目には吸血鬼として復活してアルミデウス大司教と触手の化け物だけを殺してサーシャを生かし、今僕が持っている全ての立場を捨てる。
三つ目はそもそも復活しない。
三つ目は論外だ。死んだふりするにしても、その間にサーシャは犯されて、なんかヤバい者を孕むだろう。
なので選択肢としては一つ目か二つ目。立場か命か。どちらが大切か。それを考える。
そんなこと考えている間にもその脅威は僕へと迫ってきていて、そして────
「させない」
一筋の闇が蹂躙した。
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