第45話

「な、んで……?」

 

 今にも死んでしまいそうなアウゼス君。

 ふらふらの体で、今にも倒れそうな体で……アウゼス君は私を助け、そして今も私を守ろうと


「なんで?当たり前でしょ?君は人類の希望となる聖女の一人なのだから」

 

 人類の希望となる聖女の、一人……。


「ははは」

 

 私の口から乾いた笑い声が漏れる。


「そんなわけ、ない。私が人類の?希望……ははは、ありえない。私は生まれてくる価値の無い……生まれながらに魂をアンデッドに売り払った忌み子……闇の、聖女……。アウゼス君が必死に守るほどの価値は私にはな」


「あるよ」

 

 私の言葉をアウゼス君の強い言葉が否定する。

 

「サーシャ。君には僕が守るだけの価値がある」

 

 何も疑っていない。はっきりとした言葉。

 それが私の中に染み渡り……そしてそれが私の何かを壊した。


「そんなことない!」

 

 私の口から自分でも信じられないほどに大きな声が漏れる。


「私は……!私は……闇の聖女なの!闇魔法を使う汚れた存在なの!生きてちゃいけない存在なの!」


「ははは」


 アウゼス君が私の言葉を聞いて苦笑する。


「それを死霊魔術師によって体をいじくり回されて歪な闇魔法を使えるようになった僕に言うこと?」


「あ……」

 

 私はそれを聞いて言葉を止める。

 ……私の方に振り返ってきたことで見えるようになったアウゼス君の寂しそうな顔を見て。

 だけど……アウゼス君は……。


「闇の聖女は闇へと魂を売り渡したから闇の聖女、というわけではないよ?闇の聖女は……」



「闇を打ち払う者だからこそ闇の聖女って言うんだよ?闇を打ち払えるのは闇、だけなんだよ?」

 

 

「あ……」


 アウゼス君の優しいそうな声が私の中に澄み渡る。


「……僕の人生はすべてアンデッドを滅ぼすために、捧げてきた……君は……僕にとっての希望だから。だから、何があっても……必ず守る」

 

 私は見つめる。

 前を見据えて刀を構える。アウゼス君を。

 ただ呆然と。


「素晴らしい……流石はアンゲルス様……」

 

 狂人はアウゼス君を尊敬の視線で見つめ……そして血眼になった視線を向ける。


「だからこそ妬ましいッ!!!あぁ……あなたを……殺すッ!!!」

 

 再び空間に亀裂が入り、そこから禍々しい腕が姿を現す。

 そして、それと同時に触手の化け物も動き始める。

 

 世界は停滞する。

 

 ゆっくりとアウゼス君に向かって禍々しい腕も、触手の化け物も動き出す。

 そして、その禍々しい力をアウゼス君に向かって振るわんとする。

 アウゼス君は動かない。避けられそうにない。

 それらの力はアウゼス君に向かって……。

 あぁ……。





 ダメだ。




 体が、動く。

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