第33話

 拳が。

 ミネルバの振るった拳が大岩を貫く。

 

 ドゴンッ

 

 大岩は大きな音をたてて崩れていく。


「あ、注意ね」

 

 僕は容易く大岩を破壊したミネルバにそう告げる。


 ヒューッ

 

 そんな僕の言葉が放たれると同時に風を切る音が響き渡る。


「はっ!」

 

 飛んできた矢。

 それをミネルバは軽々しく剣で撃ち落とす。


「行く……」

 

 ミネルバが軽やかに地面を蹴り、目の前から消える。


 ドゴンッ

 

 何かが破壊される音。


「なん……」


「あぁー!!!」

 

 そして、次々と上がっていく悲鳴たち。


「えっぐ……」


「すご……」

 

 僕とサーシャの驚きの声が重なった。


 大岩の奥。下。そこにあるのは一つの大きな空洞。

 その空洞の奥には大岩を砕いた人間を容易く狙い撃てるような位置に弓兵たちが立っている場所が存在している。


 壁で大部分を隠し、安全にした状態。そんな部屋。

 それをミネルバは力技で押し通した。

 石造りの壁を容易く破壊し、そこの中に隠れていた四人の弓兵を一網打尽にしたのだ。

 やっぱり強いね……ミネルバは。流石は終焉騎士序列二位だ。


「うん。それじゃあ……行こうか」

 

 僕の方へと振り返ったミネルバはとてもとても頼もしい表情で告げた。

 まぁ無表情なんだけど。


「行こうか」


「う、うん」

 

 僕の言葉にサーシャは頷いている。

 歩き出したサーシャと僕。僕の隣を歩くサーシャの手は少し震えていた。


「サーシャ」


 僕はそんなサーシャの名前を呼ぶ。


「は、はい!な、な、なんでしょう?」

 

 いきなり名前を呼ばれ、大きく焦ったサーシャが挙動不審に、僕のお腹辺りを眺めながら返事する。


「助けるんでしょ?」

 

「……っ」

 

 僕の一言。

 それを聞いてサーシャは一度、体を大きく震わせる。


「自信を持って……」

 

 優しく、僕は囁く。


「じゃないと助けられないでしょ?それに安心してよ。頼もしい仲間がいるからさ」

 

 僕は笑顔を浮かべながらサーシャへと告げた。


「それにサーシャだって闇の聖女でしょ?絶対助けられるからさ」


「……う、うん」


 サーシャは僕の言葉に対して小さく頷く。

 そんなサーシャの瞳が。

 伏せられたサーシャの瞳が不安げに揺り動いたのを僕は確認した。

 ……良し。

 僕はそんな様子のサーシャを見て心の中で頷く。……行けるかなぁー。

 僕は先行きの不安を心の中に抱えながら先へと進んでいった。

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