第24話

「……ァ……、マテ」

 

 声が聞こえてくる。

 世界を震わせる醜い声。掠れ、揺らす声

 生きとし生けるものを越え、すでに死者であるアンデッドで、吸血鬼である僕ですら深い嫌悪感と憎悪感を煽る最悪の声。

 これほど醜い声は世界の何処を探してもないだろう。


「……っ!」


「ストップ」

 

 条件反射で剣を異空間収納から取り出して斬りかかったアーレスを止める。


「何をっ!?」


「情報が得られるかも知れないでしょ?」

 

 僕はそう言って何故か喋りやがるタコ足の化け物へと近づいていく。


「危ないぞ」


「大丈夫大丈夫。一回程度死んだくらいどうってこともないから」

 

「……クエ……クエ……ク、エ」

 

「なるほど」

 

 タコ足の化け物から聞き取れるかすかな声。それは自身を食えというもの。

 ……こいつを喰っても大丈夫なのか?……いや、こいつ一人で僕を蹂躙できるわけもないか。

 気持ち悪いが、仕方ない。必要なのだからやろう。


「いただきます」

 

 僕は一言呟き、右腕を赤黒い血へと変える。

 膨張していく僕の右腕はタコ足の化け物を容易く呑み込んだ。


 トクンッ

 

 僕の中に広がっていく。

 闇が。

 

 

 闇が。 

 

 

 何年。何十年。何百年と味わい続けた苦しみが。蓄えられてきた闇が。

 歪に伸ばされた時の中で苦しんだ闇。

 それが一気に僕へと襲いかかり、侵食していく。

 僕という仮初の存在を呑み込み、闇は更に更にと侵食し、蓋を開ける。

 一人の、歪に歪められた何百年という苦しみが生み出した闇は、

 

 何十万を超える人間の闇と相対する。

 

 闇は大きな闇に迎え入れられ、共に増幅する。

 

 何十万を超える人間が、体験する。

 

 闇を。

 

 苦しみを。

 

 何百年という苦しみを。


「んっ……」

 

 僕の口から小さな声が漏れる。

 一気に何倍にも膨れ上がる闇。

 僕はそれらを強引に押し込める。

 

 光を辿り寄せ、『人類を守護る』という目的を思い出し、ボロボロの自分を見つけ出す。足りないところは喰った人間から強制的に奪い、補っていく。

 また1から僕を再構築する。


「はぁー」

 

 ため息を吐く。

 深い深いものを。

 タコ足の化け物から得られた知識。それは中途半端で、重大なところがかなり抜け落ちてしまっている。こいつが一体何もなのか、誰を素体としているのかもわからないままだ。

 だがしかし、確かに情報が得られた。


「急ぐぞ」

 

 僕は隣にいるアーレスへと声をかける。


「国外酔街が危ない」


「何っ!?」


 得られた情報の中にはこんな悪趣味なタコ足の化け物を作った輩の、悪魔崇拝者共の計画の情報もあった。

 ……くそったれ。何故かは知らないけど悪魔崇拝者共の計画が進みまくっていやがる。

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