第55話
「……終わったのかな」
レーテーと苛烈な戦いを繰り広げていた僕はポツリと呟く。
「えぇ。どうやらそのようですね」
レーテーは僕のその言葉に頷き、動きを止める。
それに合わせて僕も足を止めた。
刀に纏わせていた黒雷を霧散させる。
そして、再び己の感情に蓋をする。
僕の理性を蝕んでいた様々な悪感情を沈める。
全ての感情を封じ、忘却し思考を澄み渡らせる。人類を守護るという目的のため。
「……なるほど」
「ん?」
僕はレーテーの小さなつぶやきに首を傾げる。
「いえ、なんでもございませんよ。……『世界は正常へと回帰する。太陽が昇る』」
世界が。
僕らを隔離していたレーテーの世界が崩れていく。
まばたきをした次の瞬間。その視界に広がるのはステージではなく最初の大広間。
「さて、契約主も死んだことですし、ここらへんで私もお暇させていただきましょう」
「……契約?」
僕はレーテーの言葉に首を傾げる。僕ら吸血鬼は別に契約なんか交わさない。なんか前世の物語によく出てくる人間と契約を交わし、重んじる悪魔とは違う。己の自由に己の思うがままに行動する。契約なんぞに縛られない。
こいつの血鬼能力か?
「えぇ。私は個人的に人間と契約を結んで行動しているのですよ。あぁ、別に私の血鬼能力とは何も関係はありませんがね。ただの個人的な趣味とも言えるものですよ」
「……君の目的は何?」
人間と契約を結んでいる吸血鬼なんて僕以外に初めて見る。吸血鬼はみな、人間を恨み殺意を持っているのだから。
「私は少しだけ特別なのですよ。あなたの用にね。私はあなたに会いに来ただけなのですよ。私たちの、ね?」
……私たちの?なんだ?それは。何を言っているんだ?こいつは。
「別に私は人間に危害を加えようとしているわけではございませんので。……私の目的は二人の物語を最後まで見届けることですから」
「……」
二人?誰だ?……一人は僕で確定。……後もうひとりは誰だ?勇者か?あの女吸血鬼か?それとも僕の知らない誰かか?
「それでは失礼しますね」
レーテーは僕に向かって一礼し、消える。
魔法を感じたので、おそらくは転雷神だろう。転雷神は遠距離の転移は出来ない。おそらくまだ近くにいるだろう。
……わざわざ探す必要もないだろう。僕の感知からうまく逃れているせいで、レーテーがどこに転移したかわからないし。
「ふー」
僕は一度息を吐き、それからリリネのいるほうへと向かった。
……あ。
自分の体を傷つけておかないと。
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