第54話

 お父様が転がり、私から離れ再び立ち上がる。

 その様子を呆然と私は眺める。

 私の腕は震え、刀をちゃんと持てているかわからない。


「……」

 

 そんな私の様子をお父様は無言で眺める。

 沈黙。

 私とお父様は刀を向け合いながら沈黙する。


「魔法もまた、お前の力だ。咄嗟の判断で遠距離攻撃魔法を使ったところで誰も責めぬ。……侍の戦い方が時代遅れであることなど私らは知っているからな」

 

 ……違う。そんな理由じゃない。私が刀を振れなかった理由は。

 私は……私は……この後に及んでもまだ……。

 再び沈黙が流れる。

 

「……私は……」

 

 再び沈黙を破るようにお父様は言葉を続ける。


「此度の内戦のため、吸血鬼を我らの陣営に招待した。お前とともに来た男と今、戦っているのは吸血鬼だ。レッサーではない。かなり高位の吸血鬼だ」


「なっ!?」

 

 お父様の言葉に私は驚愕する。

 ……吸血鬼を……招き入れた……?アンデットの中でも上位である吸血鬼を……?

 戦っている……?アウゼスくんが吸血鬼と? 


「じ、自分が何をしたかわかっているでござるか!?」


「わかっているとも。……吸血鬼にはあの男を殺さないように言ってある。そのおかげかまだあの男は死んでいないようだ。だがしかし、それもいつまで続くかわからないぞ?」


 私は自分の頭に血が登っていくのを感じる。


「俺を殺せ!さすれば吸血鬼も大陸に帰っていくだろうッ!そういう契約だッ!私はすでに対価を払っているッ!あの男を吸血鬼に殺されたくないのであれば……ッ!俺を殺すがいいッ!」

 

 お父様は、この男はそう叫び、私に向かって刀を振り下ろす。

 

「ぐっ」

 

 私は刀を受け止める。重く鋭い一撃を。こいつは……吸血鬼を招き入れた。人類の敵を。そしてアウゼスくんが……。

 そんなこと……そんなこと……。


「許されざることでござる!」

 

 魔力が、私から魔力が吹き出す。

 その魔力は私の意に従い、大いなる水へと変わる。私は水の聖女。この世の水の、水分の支配者。目が熱い。今までに感じたこと無いほどに私の中の魔力が高まっていく。力があふれる。

 私はお父様の刀を吹き飛ばす。


「悪に染まったお前は!倒すでござる!それが最後、私に出来る親孝行でござるッ!」

 

 倒すべき敵。アンデッドに汲みするものだ。許されない……許されることじゃない!!!


「来いッ!!!」


「ラァ!!!」

 

 私が刀を振るい、敵が、お父様が私の刀を受け止めようとする。

 お父様の一撃。

 私の脳裏に浮かぶのはお父様が私に見せてくれた剣術の奥義。

 お父様の一撃をなぞり、振られる私の一撃は─────

 

 お父様の胴体を斬り裂いた。お父様が受け止めるべく振るった刀ごと。

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