第53話

「ぐっ!!!」

 

 私はお父様の一撃を受け止める。

 お父様は属性魔法なんて使わない。無属性魔法の身体強化魔法を極め、剣術を磨き抜いてきた人だ。

 身体強化魔法だけなら私が出会ったどの人よりも上手い……!


「くっ」

 

 私は急いで後ろに下がる。

 接近戦でお父様と戦うのは分が悪い。

 得意の水魔法で中遠距離から確実に……!


「侍が逃げるなァ!!!お前が聖女として大陸に行こうともお前は侍だッ!次にお前の侍の長となるのはお前だッ!お前なのだッ!侍とふさわしい姿を見せろッ!」


「うっ……」

 

 お父様のその言葉に足を止める。

 これは……殺し合いだ。たとえ私がお父様に対し、中遠距離からひたすら殴っても何も文句を言われる筋合いはない。むしろ、それが正しい姿だろう。

 だけど……それは、侍の姿としては正しくない。

 正々堂々。接近戦で戦闘する。それが……侍としての姿。

 そして私は……!


「ラァ!!!」

 

 恐れを捨て、私は一歩を踏み出す。

 

「そうだッ!それでこそ我が娘ッ!侍の姿よッ!」

 

 お父様の刀と私の刀がぶつかり合う。


「『水よ』」

 

 私は詠唱を、世界へと頼む。

 聖なる聖女の祈りに、世界は答える。

 私の体を水の鎧が包み、刀を水が覆う。魔力が多分に含まれた水はすべてを呑み込み、破壊する。


「ぬぅ!!!それがお前の刀かッ!!!」

 

 私は水の刀を操り、振るう。

 間合いが常に変化するこの刀はお父様を惑わせる。


「良い……良い太刀筋だ!大陸でも鍛錬を忘れていなかったようだな!素晴らしい!」

 

 私が息をすることすら忘れ、無我夢中で刀を振るう。

 防戦一方のお父様を倒し切るべく刀をふるい続ける。


「だが、足りない」

 

「なっ!?」

 

 お父様の太刀筋が変化する。

 私の刀を物ともせず、鋭い刀が私を襲う。


「くっ……」

 

 攻守は一気に逆転する。

 私は徐々に追い詰められていく。

 お父様の刀に、一振りに対抗するべく私は全神経を集中させ……まだ足りない。

 私の体に赤い線が入っていく。


「ふっ」

 

 そして、一気にお父様は私との距離を詰める。

 お父様の刀に対抗することで一杯一杯だった私は、その動きに対処出来ない。

 殺気が込められた一振りが、その一撃が私に襲いかかる。


 死

 

 それがすぐそばまで迫っていた。


「『水よ!!!』」

 

 私は魔法を発動させる。

 とっさに発動させた魔法は、魔法によって作られた水の鞭がお父様を吹き飛ばす。

 最後の一撃で油断していたのか。魔法を喰らったお父様の姿勢が崩れ、隙を晒す。

 今ッ!!!


「ふっ」


 お父様が小さく笑う。

 安心したように。 


「っ!?」

 

 私は……刀を振れなかった。

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