第52話

「はぁはぁはぁ」

 

 私、リリネは息を切らしながら走る。ある一つの場所に向かって。

 視界が歪み、刀を持つ手がカタカタと震える。

 

「はぁはぁはぁ」

 

 そして、一つの大きな扉の前に止まる。

 ここに来るのも随分と久しぶりだ。


「ふー」

 

 私は大きく息を吐く。

 心を落ち着かせるように。

 だがしかし、私の手の震えが収まることがなかった。

 

「……っ」

 

 だが、こんなところで止まっている暇はない。アウゼスくんも私のために戦ってくれているのだから。

 待たせるわけには行かない。

 私は意を決して扉をゆっくりと開ける。


「……来たか」

 

 扉の先。

 宮廷の最上階、宮廷で一番広い大広間の中央で正座していたお父様が小さな声で告げる。

 正座しているお父様の横には一振りの刀が置かれている。


「……お父様」

 

 私は小さく呟く。

 ……。

 …………。

 お父様に……。

 言いたいことは、言わなくちゃいけないことはたくさんあったはずなのに。

 口が震え、うまく声が出ない。


「来ると思っていた。他人思いのお前のことだ。私の行いをお前は看過出来ないだろうからな」

 

 震えている私を前にゆっくりとお父様が話し始める。

 あぁ。答えないと。

 

「……そ、そうでござる。内戦なんて……するべきではなかったでござる。……人間同士で争い合うなんて馬鹿らしいでござる。……我ら武士は大陸の方に出向き、アンデッドの戦いにその身を投じればよかったでござる……」


 震えて、情けない。無様な声を私は漏らす。

 これが私の本心だ。


「あぁ。まったくもってその通りだ。お前ならばそう言うだろうな。大陸に行ったお前ならば、な。……だが、私はそう言えないのだ。私にとってこの国が全てなのだ。侍を軽んじる御大護を許容できない。私は旧世代の人間だからな」

 

 お父様は立ち上がり、刀を抜く。

 戦いは避けられない。避けることが出来ない。もう手遅れの状態にまで来てしまったのだ。

 私も腰から刀を抜く。


「……お父様。ここで、その首もらうでござる。……私の家族のために」


「あぁ。よかろう……」

 

 私の言葉にお父様は素直に頷く。


「しかし、ただではやれぬ。私の首はな」

 

 お父様が刀を構える。一切の隙無く。


「そう安くはないぞ」

 

「わかっているでござるよ。お父様」


 私もお父様に合わせて刀を握る。

 ……こうしてお父さんと刀を合わせるのは一体いつぶりだろうか。

 こんな形で、刀を合わせたくはなかった……。

 でも……もう。

 戻れない。


「俺を越えてみろォ!我が娘!!!」

 

 お父さんが叫び、私に向かって鋭く重い一撃を振り下ろした。

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