第49話
「『私は見届ける者。二人の物語を』」
「固有結界!?」
「『常に横で立っている。私は見ている』」
老執事の吸血鬼は『詠唱』を続ける。
「『我が名は観測者』」
世界が移り変わっていく。
書き換えられていく強大な力に。呑まれていく。
「『物語を最後まで見届けることこそ我が使命』」
パシャ
シャッター音が響く。
パッ
ライトが光る。
ステージ上に立つ僕を照らすように。
「良いですよ。アウゼス様」
ステージの前。
観客席に座り、カメラを構える老執事の吸血鬼。
「ここが……お前の世界」
「えぇ。こここそが私の世界です。戦うための世界じゃないのですよ。私の世界は。ただ物語を永遠に記録している。ただそれだけの世界なのですよ」
固有結界。
遥か高位の、力ある吸血鬼しか持っていない技。とって奥の手中の奥の手とされる技。
吸血鬼は他のアンデッドとは少し違う。
根本的にあり方が違うのだ。死んだ人間が、死にきれなかった人間がゾンビやスケルトン、ゴーストになるのに対して、吸血鬼は一人の死体ではなく複数の死体から誕生する。
戦場で、災害で、飢饉で。
死した数多の人間の血が流れ、一つに集まることによって誕生する。
吸血鬼が人間に対してたくさんの人の血を流し込むことによって吸血鬼が生まれることもあるが。
ゾンビなどの吸血鬼以外のアンデットは生前に持っていた魔法の属性をそのまま引き継ぐことになる。
しかし、吸血鬼は別で、すべての吸血鬼は雷属性と闇属性という二つの魔法の属性を持つ。吸血鬼はこの二つの属性しか使うことが出来ない。
闇属性を持っているのは闇の聖女と吸血鬼だけだ。
固有結界は雷属性と闇属性の魔法の複合魔法だ。
自分が持っている記憶と感情と。
思いを世界へと具現化させる。
闇属性の精神へ干渉する魔法で思いを作り、雷属性で世界を作る。
もはや自分の記憶も感情もぐちゃぐちゃで、思いなんてわからない僕じゃどうやっても使えない技だ。
「……やば」
僕は小さく呟く。
固有結界。知識としては知っていたけど、本当に生で見るのは初めてだ。
吸血鬼の頂点であるヴァンパイアロードしか使えないって聞いていたんだけど。
「ご安心を。この固有結界は記憶するだけのものですので。ただ、私たちの戯れで宮廷を壊すのを避けたかっただけですので」
「それは良かった」
それが本当だったらいいんだけど……。
「本来私はステージ上に上がる人間ではないのですが。仕方ありません。役者としては不十分ですが、私が代役を勤めましょう」
観客席に座っていた老執事の吸血鬼は音もなくステージ上に上がった。
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