第48話
「どうも初めまして」
影より現れた吸血鬼が僕に向かって綺麗な礼を見せる。
目の前にいるのは一人の老執事。
オールバックにで後ろでまとめられた長い白髪に、眼鏡越しに僕を優しげな感情で見つめる真紅の瞳。
引き締められた体と、その奥から感じる魔力の圧。
それがこの吸血鬼が圧倒的な強さを持っていることを物語っている。
その力はファートゥムを遥かに超えるほどだ。
ノーブルヴァンパイア。
エルダーヴァンパイアよりも一つ高位の吸血鬼。始祖と呼ばれる吸血鬼の王ヴァンパイアロードの側近。
「……店員さん」
僕はこの男、この男の血の気配に覚えがあった。
修学旅行の初日。僕がパルちゃんたちと行った着物を着させてくれるお店で僕に女装を進め、たくさんの写真を撮っていた店員さん。
あの店員さんは若い男の人で、目の前にいる吸血鬼は老人。見た目上は似ても似つかない。しかし、血の気配があまりにも似ていた。
……あの日、僕は店員さんの血の気配に少し違和感を覚えた。だが、少しの違和感だったので特に気にはしなかった。あの店員さんはこの吸血鬼の変装だったのだろう。……これは、僕のミスだね。
「えぇ。そうですよ」
老執事の吸血鬼は僕の言葉に頷く。
「……っ」
僕は警戒心を一つ上げる。
少しだけ、まずいかも知れない。
ノーブルヴァンパイアと戦うのは流石に初めてだ。勝てるかどうか。負けることはないと思うが。
知っていれば前準備も出来たのだが……。
「気を抜いてもらって構いません。少し、戯れるだけですので」
警戒しまくりの僕に向かって老執事の吸血鬼は余裕そうな笑みを浮かべて僕に告げる。
「……それはありがたいことだね」
血の影からとある魔道具を取り出す。
少し前に手に入れた賢者と呼ばれた伝説上の男が持っていたとされている真っ赤に光り輝く玉の形をした魔道具、『賢者の宝玉』。
ようやく人間用として作られた賢者の宝玉を吸血鬼である僕でも使えるようにする調整が終わったのだ。
賢者の宝玉は僕のすぐ近くでふよふよと浮かび上がる。
そして、対吸血鬼用の刀、妖刀を取り出す。
吸血鬼への怨念がたっぷり込められた刀。以前僕が殺した男が持っていた刀。
それを僕は再現して取り出す。
「なるほど……随分と成長したのですね」
老執事の吸血鬼は感心したように呟く。……?成長?こいつは昔の僕を知っているのか?僕は吸血鬼の知り合いなんてあの女くらいしかいないが。
「では」
老執事の吸血鬼の魔力が吹き荒れる。
「『私は見届ける者。二人の物語を』」
「固有結界!?」
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