第44話
「お腹空いていないでござるか?」
観光の途中。唐突にリリネが僕にそう問いかけてくる。
「え?いや、別に僕はお腹なんて空いてないけど。それがどうし─────」
ぐぅーーー
僕の言葉を遮るように発せられる特大のお腹の音。
「……リリネ」
「はぅわ!?」
「ご飯食べに行く?」
「はわわわわわわわわわわわわわわわわわ。恥ずかしいでござるぅぅぅぅぅ!!!」
リリネは顔を真っ赤にして道端にうずくまってしまう。
そんなリリネのもとに道行く人の視線が集まる。
「通行人の邪魔だよ」
僕はうずくまってしまったリリネをお姫様抱っこで持ち上げる。この持ち上げ方が一番持ち上げやすい。
「ふぇ?」
「何処行く?おすすめの飯屋は?」
「え?」
「ん?」
僕とリリネは見つめ合う。
「この状況で何もなしでござるか!?」
「……?」
僕はリリネの言っている意味がわからず首を傾げる。
「もう良いでござる!早く下ろすでござる!」
リリネは叫ぶ。僕はリリネの言葉の言うことに従い、リリネを下ろす。
「……初めてのお姫様だったでござる……これが……あのお姫様抱っこでござるか」
僕が普通の状態だったら聞こえないであろう小さな声でリリネは呟く。少しだけ熱っぽい声で。ついさっき吸血鬼化して、まだ封印を施していないので五感も優れている吸血鬼のままなのだ。
……?僕はリリネの反応に内心首を傾げる。好きでもないやつにお姫様抱っこされても嬉しくないだろう?もしかして僕に惚れた?いや、流石にこの短期間で惚れるのはチョロすぎるだろう。
僕はリリネの心情を除く。闇魔法を使えばこの程度造作もない。
……え?リリネの僕に向けている感情。それは恋心だった。まだ本人がはっきりと自覚しているわけではない、ふわふわの状態だが。
意味がわからない。一体どこにリリネが僕に行為を向けてくる理由があるんだ?チョロすぎるだろう……前世だったら結婚詐欺に引っかかりまくっているレベルだ。
まぁどうでもいいか。
どうせ僕のことなんかすぐ嫌いになる。
僕がどれだけ醜く、死ぬべき存在なのかを僕が一番よく理解している。一人の少女が僕を愛するわけがない。それは一時の心の迷いだろう。
「ほら早く飯屋に行こう?お腹空いたんでしょ?どんなところに連れていってくれるの?」
「う、う、う、うるさいでござるよ!私はお腹なんて鳴らしていないでござる!」
「はいはい。それで?何処行く?」
「じゃあ、私の行きつけのお店に行くでござるよ!」
「ん」
僕は意気揚々と歩き出したリリネの後をついていった。
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