第39話

 二人の侍がにらみ合う。

 一人は徳山家当主、徳山一教。

 そして、もうひとりは御大護天皇の側近。懐刀、霊峰。

 一教と霊峰は互いにらみ合う。


 ぽちょん

 

 互いの剣から垂れた血が地面へと染み込んだ時。

 二人が動き出す。

 縮地。

 二人の間合いは消滅し、刀がぶつかり合う。

 砂利がえぐれ、剣戟が木霊する。

 

「しっ!」

 

「ふっ!」

 

 刀がぶつかり、受け流し、振り抜く。

 実力は互いに拮抗している。

 絶対の剣術。最強の剣術。近接戦闘においてこの二人に勝てるものは大陸でもそういない。

 終焉騎士でやっと、といったところだ。

 異次元の戦いを前に、戦場は一時の静寂を手にしていた。

 誰も手を出すことなんて出来ない。誰も動けない。


 一瞬の油断さえ許されない極限のバトルを二人は繰り広げる。


「水を差すのは趣味じゃないけど、許してね」

 

 上空で上から監視していた僕は一言呟き、地面に染み込んだ血を操作する。

 僕がすることは些細な手助け。

 ただの凡夫の戦いであれば何の影響もないようなことだ。

 だけど、達人同士の戦いにおいてそれは致命傷となる。


「っ!?」

 

 足元。

 一教は自分の足元に貯まっていた血の水溜り。

 それに掬われ、ほんの一瞬。本当に一瞬だけ動きに陰りが生じる。


「ラァッ!」

 

 霊峰はその一瞬を逃さない。

 極限の緊張状態の中、一教に生じたほんの一瞬の陰りに刀を差し込む。

 

「くぁっ……!」

 

 霊峰の刀は一教の腹を斬り裂く。

 だがしかし、致命傷には至らない。

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああ!!!」

 

 一教は最後。

 自分の敗北を悟る。

 だがそのまま敗北を認め、死を享受することなど許されない。

 最後の一撃を振るう。

 それは、霊峰の腕を斬り裂いた。


「はっ!」


「……あっ」

 

 その対価は自らの命。

 一教は霊峰の一撃によって首が落とされ、その生涯に幕を下ろした。


「ふぅー。ちゃんと活用してくれてよかった。これで……」

 

 上空より眺めていた僕は一人呟く。

 一教が死んだことにより、手宮愛鷹の軍勢に動揺が走る。

 

「今だァ!!!いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ!!!」

 

 それをチャンスとして、霊峰が叫ぶ。

 御大護天皇の軍勢は一斉に突撃を敢行する。

 霊峰を筆頭とした御大護天皇の軍勢は統率の取れない手宮愛鷹の軍勢を蹂躙した。

 

 ここから少し遠く。

 馬の駆ける音が聞こえてくる。

 手宮愛鷹の援軍がやってきたのだろう。

 彼らが来れば形勢は逆転する。

 

「まぁこれで終わりだろう」

 

 僕は戦いの結末を予想し、この場を離れ、皇都京都へと向かった。

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