第36話

「くっ……」

 

 とある屋敷の一室で一人の少女、罅隙が頭を抱えている。


「このままじゃ……」

 

 罅隙は今、追い詰められていた。

 次々やられていく自分の同士たち。それなのに、自分はそれに対する効果的な対策を取れないでいた。

 何もしていない。というわけでもない。なんとか対抗しようと頭を回し、策を講じている。しかし、そんな策もろとも食い破られてしまっていた。


「罅隙様……」

 

 ぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性、浅池家の当主、家造が罅隙の名前を呼ぶ。


「はい……すみません……せっかく協力してくれたと言うのに……」


「いえ、私は今でもそれが間違いだったとは思っていませんよ」

 

 家造は罅隙の言葉に笑顔で答える。その言葉に嘘はなかった。

 アウゼス。沼の王を倒すことが出来る人物が味方にいるのだ。

 家造は間違いなくこの船が勝ち馬だと確信していた。


「ありがとうございます……」


「罅隙様。そろそろ決断すべきときです。攻勢に出る決断を。三竦みを構築するという目的はすでに破産しています」


 家造はアウゼスから『計画』を聞いていた。家造はその計画通りに事が進むように罅隙を誘導するだけだ。

 『彼女』の誘導はアウゼスがやると家造は聞いていたので、家造は罅隙にだけ考えていればいい。

 

「……そう、言われましても……わたしたちの戦力では……両陣営と戦うことなんて出来ません」


「えぇ。そうですな。ですが、忘れていませんか?元々両陣営は味方同士でなく、敵同士なんですよ」


「え、えぇ。そうですね」


「最早我々はすでに死に体。いつでも簡単に叩き潰すことが出来るでしょう」


「……えぇそうですね」


「これでもし。どちらか片方の陣営が甚大な被害を受け、後ひと押しで壊滅するという状況になったらどうなるでしょうか?すでに死に体であり、大した力も持っていない我々なんか放置し、後少しで倒せそう相手を優先するでしょう」


「た、確かにそうですが……しかし、そんな状況にまで持っていけるとは思えませんが」


「可能です。現在御大護天皇は吉野から出て、とある野原に出陣しています。ここを叩き御大護天皇を討ちます」


「馬鹿な!?そんな事できません!相手は本陣ですよ!?」

 

「えぇ。流石に討つのは不可能。しかし、本陣に傷を加えることは可能です。そして、その傷口は手宮愛鷹の配下が広げてくれるでしょう。本陣が乱れた。その一瞬を彼は必ず逃さない」


「……傷を加える。……それすら可能だとは思えません」


「私に私兵がいます。私の私兵ならば傷を加えられるでしょう。私にすべてを任せてくれませんか?」

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