第35話

「殺せー!!!」


「殺れ殺れ!」

 

「突撃ー!!!」


「やってやれぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!」

 

 甲冑を身にまとい、刀を握った侍たちが叫びながら突撃していく。

 突撃して行った先にいるのは貧相な甲冑を纏った集団。すでにボロボロでけが人までいる。


「守れ!必ずここで足止めするのだ!」


 そんなボロボロの集団を率いる男が必死に声を張り上げ、周りを鼓舞する。

 彼らは罅隙の元に下った大名の侍。満足に戦えるほどの戦力を持たず、罅隙の元に下った大名。

 そんな彼らが侍としてかなりの力をもっている愛鷹の元に下った大名の侍を相手に戦えるはずもなかった。

 もう幾度も戦い、何度も敗走している。

 すでにボロボロの甲冑しか残っておらず、けが人まで出さなきゃいけないまでの人材不足。

 刀だけは少しの刃こぼれがある程度未だ戦えるレベルであることが唯一の救いか。

 だがしかし、彼らは諦めるわけには行かない。


「必ずや南越様が退却するまでの時間を稼ぐのだッ!」

 

 自分たちの主君が逃げるまでの時間を稼ぐため、彼らは必死に戦う。

 彼らは信じている。

 一度敗北し、南越家が領地から逃げ出すことになったとしても。

 最後に罅隙が勝ち、再び南越家が領地に帰り、治める事ができる。以前と変わらない状態になることを。

 彼らは自らの命を差し出し、決死の抵抗を続けていた。


「殺れ!!!」


「早くしろッ」


「くそっ!さっさと倒れやがれッ!」


「ここは通さんッ!」


「誰が倒れるかッ!」


「耐えろッ!耐えるのだッ!」

 

 侍たちの刀がともにぶつかり合う。

 魔法により身体を強化した侍たちはド派手なバトルを繰り広げていく。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!」


「ぐはっ!」


「くっ……!」


「みんなッ……!」


「手こずらせんなッ!」


 剣戟が響き渡り、悲鳴が辺りを木霊する。

 また一人。また一人と人が倒れ、血が流れる。


「はぁはぁはぁ」


「くそ、手こずらせやがって」


「急ぐぞ」


「おう」

 

 後に残るのは静寂と、人の死体。

 彼らが流す血は地面に染み込んでいき、跡として、残らない。消えてゆく。

 

 また一つ。

 また一つの大名家の領地が陥落した。

 手宮愛鷹の配下と、御大護天皇の配下。その両方から攻撃されている罅隙の配下。

 そして領地が隣同士で、味方の大名同士が集まっている両陣営の配下と違い、バラバラに点在している罅隙の元に下った大名たち。

 彼らは着実に各個撃破されていっていた。

 彼女たちの絶望的な戦いはまだ始まったばかりだ。

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