第37話

「ふぅー。さぁ行こうか」

 

 義賊ノーネームとして活動していたときに使っていた仮面とは違う狐の仮面越しに僕の言葉が静寂の中、響く。

 後ろで。

 僕の後ろに控えている狐の仮面を被った人間たちが一斉に頷いたのを感じる。

 手の中の刀をそっと握る。

 

 僕らの前にいるのは御大護天皇が配下。

 そして、僕の後ろにいるのは浅池家の配下の人間たち。


「突撃」

 

 僕はぽつりとそれだけ呟き、突撃を開始する。

 魔法で自らの身体能力を強化していく。


「……っ!雷魔法」

 

 僕が発動した雷魔法『アクセル』を見て後ろの狐の仮面を被った人間たちが驚きの声を上げる。


「じゃあ僕は先に行くから」

 

 ダンッ

 

 地面を蹴り、突撃。


「敵襲ッ!」


「遅いよ」

 

 僕に気づき、叫び声を上げた侍の首を跳ね飛ばす。


「くっ!?何奴!?」


「知る必要はないよ」

 

 一閃。

 刀を横に薙ぎ、敵を斬り裂く。

 僕の刀は、剣術は、とても美しい。

 大陸には、自らの剣術の腕を高めるため和の国から飛び出したきた人間がそこそこいる。

 僕の剣技はそんな彼らを殺し、喰らい学んだ剣術だ。

 数多の人間が極めた剣術の記憶を僕は再現する。そして、それらの剣術は僕に最もあった形に昇華する。


「くそがっ!」


「死ねっ!」

 

 そして、今もまた僕の剣術はさらなる高みへと登り続ける。

 自らの剣術の腕を高めるため和の国から飛び出してきた人間の剣術は美しく、優雅で見るものすべてを魅了する。

 だが、僕が求めるのはそれじゃない。僕が求めるのは殺し合いのための剣術。殺し合いとは泥臭いものなのだ。

 目の前の弱者の剣術を。生き残り、勝つための無様で泥臭い剣術の記憶を喰らい、学ぶ。

 必要なものだけ取り入れ、要らないものは排除していく。

 記憶の中の剣術を幾つも組み合わせ、最適解を模索しながら刀を振るう。

 試し斬りの相手は幾らでもいる。僕が強くなるため。この人たちには実験台になってもらおう。


「ば、化け物……」


 血が吹き出し、僕が踊る。

 彼らは強くともなんともなかった。


「ハァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 今までの剣とは違う。

 キレのある一撃。僕はそれを回避する。

 そこにいるのは豪華な甲冑を纏い、体中の魔力を滾らせている。

 主力。

 きっと目の前のこいつは名高い侍で、御大護天皇の配下の主力であると言えるだろう。


「撤退ッ!」

 

 僕はその男の姿を見て、叫ぶ。

 僕とともに狐の仮面を被った人間たちが、僕の言葉を聞いて撤退を始める。


「待って!?逃がすかッ!」


「さようなら」

 

 いきなり逃げた僕達を見て驚愕の声を上げ、追いかけてこようとする男。

 僕はそんな彼の首を斬る。

 

 ぽとっ

 

 彼の首はゆっくりと地面に落ちた。

 彼は僕の刀を認知できなかった。


「のっと」

 

 僕もサクッと離脱する。後は彼らがなんとかしてくれる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る