第31話

「アウゼスー!!!」

 

 ドンッ

 

 僕のお腹に衝撃が走る。

 視界の下にいるのは黒髪の少女。

 

「やぁ」

 

 僕は僕に抱きついてきた少女の頭を撫でる。


「元気にしていたかい?」


「うん!」

 

 僕の言葉に少女は元気よく頷く。


「アウゼスー」


「わぁー来たー」


 この少女の他にもたくさんの子供たちが僕のもとに集まってくる。

 ここは孤児院。和の国最大の商人浅池様が運営している孤児院である。

 浅池様は和の国の誰よりも教育を重要視している。自分が成功した理由は他の人よりも書物を読んだから、と常に話しているほど。

 小さな子供の頃から、大人までつきっきりで勉強を教え、育てる。自分の商会で役立つ人材の育成のため。自分の子供に、優秀な仲間がたくさんいる最強安全な商会を残したいんだそうだ。

 僕も何かあったときは助けるように頼まれている。


「遊ぼー」


「遊ぼ、遊ぼ!」


「今日は何する?」


「後でね。僕は浅池様に用事があるから。君たちは勉強しておいで」

 

「はーい!」


「用事が終わってから遊ぼうね!」


「うん。終わってからね。僕の用事が終わるよりも先に自分たちの勉強を終わらせるんだよ?」


「「「はーい!」」」


 心の奥底で。

 若干の懐かしさを感じながら僕は走り去っていく子どもたちを眺める。


「いつもありがとうございますな」


 後ろの方から浅池様の声が聞こえてくる。


「いえいえ、こちらこそお世話になっていますから」

 

 僕はすぐに振り返り、笑顔を作る。

 

「元気な子どもたちというのは良いものです。彼らこそが人類の宝物に違いない」


 浅池様は子どもたちを眺めながら呟く。

 

「えぇそうですね」


「だからこそ、子どもたちが死に、親を失い行き場を失ってしまう。そんな事態を引き起こす内戦など行うべきではない。起きてしまったのなら早期解決を目指すべきでしょう。そして、その内戦が終わったあとの処理も迅速に行わなければならない。あなたの言っていたとおり、希望を見ました。内戦が早期解決するという希望が。以前のお話。私で良ければぜひ力添えさせていただきたい。全ては和の国の復興のため。そして、内戦の早期解決のためにも私の力を存分にお使いください。愛すべき故郷の、和の国のため身を粉にして努力しいたしましょう」


「感謝します。浅池様。しかし、僕は彼女たちとは関わりがありませんよ。それ故にあなたに対して、こうしてほしいというお願いは致しません。ですが、あなたなら最良のタイミングで最大級の動きをしてくれると信じていますよ」


「えぇ!ぜひ私めにお任せください。和の国最大手の商人の力を見せてあげましょう」


 浅池様は自信満々に告げる。

 和の国の内戦。

 事態は大きく動き出していた。

 御大護天皇の娘、罅隙率いる第三戦力の台頭によって。

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