第30話

「いやぁー実に美味しかったですな」


「えぇ」

 

 僕と浅池様は早々に食事を済ませた。茶碗蒸し美味しかった。

 浅池様の食事速度が想像以上に早くて、合わせるのが大変だった。一部噛まずに飲み込んだし。吸血鬼としての身体を解放しておいて良かった。

 

 この人はアンデッドと関わり合いのない和の国の人間。僕の身に纏うアンデッド特有の雰囲気に気づかなかっただろう。

 

 アンデッドはなぜかは知らないけど魔力とは違う謎の力を常に放出しているのだ。人間と瓜二つの吸血鬼の見分け方だ。

 この謎の力のせいで吸血鬼が人間社会で生活するのは不可能に近いのだ。

 まぁ経験豊富なエルダーヴァンパイアや僕ともなればルトたちに気づかないレベルでしかその謎の力を漏れないように制御することが出来るけど。

 だからといって、ガンジスを騙すことは絶対に出来ないけど。ガンジスだけでなく、結構な人を騙せない。ルトたちはまだまだ弱者だ。経験が圧倒的に不足しているからね。

 

「いや、それでは本題へと行きましょうか。私に何の御用でしょうか?」


「大陸の人間としてのお願いです」

 

 僕は自身につけていた黒い色のかつらを脱ぎ、瞳の色も黒から元の色へと戻す。


「……」

 

 大陸の人間。その一言を聞いた浅池様の警戒心が一段階高まったのを感じる。


「内戦終結後、和の国に対アンデッド国際機構の本部を設置したいのです。そのための協力をしてほしいのです」


「内戦集結後、ですか」


「はい。そうです。内戦が終戦しない限りここ和の国に対アンデッド国際機構を作るなど無理でしょう」


「えぇ。そうですね」

 

 僕の言葉に浅池様が頷く。


「大陸では『アンデッドという脅威に対して人類全員が協力して望むべきだ』という考えが主流です。そして、その考えはここ和の国でも同じだと考えています。協力していただけますよね?」

 

 同じなわけがない。和の国にとって別にアンデッドなんかどうでもいい、対岸の火事のだからだ。だからと言って僕の言葉を拒否することも出来ない。

 和の国じゃ大陸の国々敵わない。これを拒否した先に待っていることなど明白だろう。


「えぇ!全く持ってそのとおりですとも。しかし、私には到底内戦が終わると思えないのですが」


「いいえ。直に終わります。おそらくもうすぐでしょう。僕は彼女を信頼していますから」


「……彼女?」

 

 浅池様は首を傾げる。その人物に心当たりはないようだ。罅隙が動くなど誰も考えない。


「直に。直にわかります。必ずや内戦の終結に向けて事態は動き出すでしょう」

 

 僕はそうはっきりと断言した。

 彼らならばちゃんとやり遂げてくれるだろう。

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