第29話

「どうも初めまして。あなたがあのお方の?」

 

 ぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性が笑顔を浮かべ、僕の方に近づいてくる。

 そして、僕の方に片手を差し出してくる。

 

「どうもどうも」

 

 椅子に座っていた僕も立ち上がり、ぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性の手をとり、熱い握手を交わす。

 互いに満面の笑顔を浮かべて。


「どうぞどうぞ」

 

 僕は椅子を引き、手で座るように示す。


「いやはや、これはどうも」

 

 ぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性が椅子に座る。


 スッー

 

 ふさまが開かれ、机の上に料理が並べられる。


「ごゆっくりどうぞ」

 

 美しく着飾った着物の女性はきれいな一礼ののち、部屋から出ていく。

 ここは皇都京都で最高級の料理亭。

 出てくる料理はどれも一級品だ。政治体系は南北朝時代、文化レベルは江戸時代と呼ばれていたこの和の国の料理。どれも美味しそうだ。

 まぁ今日のメインは料理ではないんだけど。

 

「いやはやすみませんね。遅れてしまい」


 まず最初にぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性が、遅れてきてしまったことに対して僕に謝罪する。

 

「いえいえ、大丈夫ですよ。和の国で最も繁栄し、力を持っている商人、浅池様ですから。今の情勢も合わせてお忙しいのでしょう」


「こんな浅学非才の身でありながら不相応なことに和の国最大手の商人と言われてしまっているもので、日々の仕事をこなすのもギリギリでして。申し訳ありません」


「いえいえ、構いませんよ。むしろ礼をしなければならないのはこちらの方です。お忙しい中来てくださりありがとうございます」


「いえいえ!滅相もございません。あの沼の王直々の推薦であられるお方ですから。お会いせぬわけにはいきませんよ。なんでもあの沼の王相手に勝利した、とか」


「えぇ。そうですね」


 僕は力強い言葉ではっきりと告げる。

 ほんの少しの圧を込めて。


「さ、流石にございます」

 

 ぱっつんぱっつんの和服を身にまとった恰幅のいい中年の男性、浅池様の額を汗が滑る。


「それで浅学非才な私に何の御用でしょうか?」

 

 浅池様はいきなり本題に踏み込んでくる。その表情に笑みはない。すべてを見透かさんばかりの眼光を僕に注いでいる。


「いや、本題よりも先に食事と行きましょう。折角の料理が冷めてしますので」


 それに対して僕は笑みを返す。


「おぉ!これはこれだ失敬。私は食事が大好きでしてね!いやはやずっと我慢していたのですよ!」


 浅池様は料理へと箸を伸ばす。

 それを見て僕も目の前の料理へと手を伸ばした。

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