第25話

「なるほどねぇー」

 

 僕は眺める。この街でかなりの高さを持つ建物の屋上から。

 街の中を涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら入る水の聖女、リリネを。

 

 ルトたちの会話は罅隙に仕込んだ盗聴器から聞いていた。ちなみに僕は罅隙をルトたちが泊まっている宿屋の部屋の前まで届けた後、『僕には僕のやるべきことがある……お前はお前のすべきことをしろ』とか言って別れた。

 盗聴器。僕が僕の記憶の中より再現した模造品。現代の人間たちでは知る由もない超文明の産物。これを僕は至るとこに仕込んでいる。

 誰にも教えていない僕だけの情報網だ。まぁ、別に僕は教会や国に牙を剥くつもりなんかないけどね。


「……リリネ排除ルート進んじゃうかぁー。まぁでも……仕方がないといえば仕方ないか」

 

 勇者であるルトはただの農民の子だ。農民の子が突然勇者としての力に目覚め、それ以来王城の方で作法や、戦い方を学んできた。言わば温室育ち。甘ちゃんなのである。重要な決断など出来るはずもないだろう。

 ちなみに、勇者とは固有スキル『勇者の力』を獲得した者のことを言う。聖女たちの場合は、『聖女の奇跡』という固有スキルを持っているもののことを言う。マリアお姉ちゃんの場合は『聖女の奇跡(火)』だ。


「……まぁ、助けるかぁ」

 

 リリネ一人を助けるくらい造作もない。

 聖女は一応全員守っておいた方が良いだろう。


「『いってらっしゃい』」

 

 僕の影が伸び、一匹の化け物が産声をあげる。

 記憶の再生。模倣。

 僕が喰らった魔物に、様々ば部位を足し合わせて作ったキメラ。命を弄ぶ吸血鬼の業。ちなみに喰らった記憶の再現、模倣なんて僕以外出来ないので、命を弄ぶ吸血鬼の業ではなく、命を弄ぶ僕の業である。

 僕の中にはこんな化け物が結構たくさんいる。

 

 影の化け物は跳躍する。

 そして、リリネの影の中に入り込む。

 あれはリリネに命の危険が迫ったときにうまく対処してくれるだろう。


「んー。どうしようかなぁー」

 

 僕は今後の動きを考える。リリネを助けるのは確定として、どこまで僕が行うか。どこまで干渉するか。僕がすべてやってあげてもいいけど、それだと勇者が成長しない。勇者には人類の守護者として育ってもらいたいのだ。

 今後、僕じゃ敵わない。勇者でないと倒せない人類の敵が現れる可能性あるのだから。

 ついでにアンデットの脅威にさらされていない和の国という特別なこの地も有効活用出来るようにしたい。

 

「おーん」

 

 まぁ、臨機応変に行こうか。うん。考えるの面倒。

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