第23話
「すまないでござる……」
俺、ルトの目の前で水の聖女、リリネが頭を下げる。
和の国での内乱。そんな情勢下で他の生徒たちが飛行船で強制送還されている中、俺と聖女たちはこの場に留まっていた。リリネの頼みで。
「別に良いわ。それで?今どういう状況なの?」
火の聖女、マリアがリリネに尋ねる。
「結果は……芳しくないとのことでござる。御大護天皇陛下の身柄の拘束に失敗しているそうでござる」
「そう……」
俺らがここに留まっている理由。
それはリリネ側、反乱を起こした側の戦力として、内乱に介入するためだ。
……内乱。……人と人の戦い……。俺に、人が殺せるのだろうか……。
俺は自分の手を見下ろす。
幾度も剣を振り、硬く、ゴツく。強くなったと思っていた手のひらは酷く、弱々しかった。
「ほ、本当に協力してくれるでござるか?」
リリネが弱々しい声で尋ねてくる。
「……」
「ふん。仕方ないだろう」
未だ迷い、混乱の中にいる俺とは違い、雷の聖女、シーネがはっきりと答える。
「お前は一応同じ聖女の仲間などだ。……仲間であるなら助けてやろう」
シーネの言葉は強い。重い、重い覚悟が乗せられている。
「だけど……」
だが、シーネほど皆が強いわけではない。
「私たちは……このままだと人をこ、殺す。ことになるんだよ、ね?」
風の聖女、アンナは弱々しい声を上げる。
マリアとシーネはすでに覚悟を決めている。
だけど俺のように未だ覚悟が決まっていない聖女たちもいる。闇の聖女、サーシャは無表情だから、わからないが、他の聖女たちは未だ不安げだ。いつもは強くて堂々としている土の聖女、ギリアでさえ不安げだ。
「軟弱な」
シーネはそんな聖女たちを鼻で笑う。
「私たちは人類の希望たる聖女なの。ルト。あなた勇者もね。私たちは必ずいつかは人を殺すことになる。アンデッドの味方をする人間もいるからだ。これはいい機会じゃない。仲間を助ける、という言い訳も手に入れたわけなのだから」
……人類の希望、か。
俺は天を仰ぐ。
俺にそんなことが出来るのか……。俺に人を殺せるのか……。俺は……罪を背負えるのか……。
悩んでばかりだな……。俺の頭によぎるのは常に堂々と、平然としているアウゼスだ。……あいつなら、何て言うのだろうか……。
「でも……だからと言って彼らを殺していいわけではない……。出来るのならば死んでしまう人が少なくなるように努力すべきなんじゃ……」
「えぇ。まったくもってその通りです。もしよろしけば私の話を聞いてくださりませんか?」
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