第22話

「えっと……あなたは一体?」


「それは後で。とりあえず今は隠れるよ」

 

 僕は着物の少女を抱きかかえ、移動を開始する。

 一応超人レベルの動きに留めておく。僕が吸血鬼であることがバレたら流石に学園に要られなくなっちゃうからね。

 侍たちがぶつかる戦場を走り抜け、深い森に入る。

 最も激しい戦いとなっている場所が深い森の隣の平地で良かった。簡単に逃げれる。

 わざわざ深い森に入ってくるような人はいない。……ついさっき居たけど。


「お、追手が!」


「わかっているよ。安心して。何の問題もないから」

 

 反転。

 抜刀。

 僕を、着物の少女を追いかけていた侍たちを殺す。


「もう少し逃げるよ」

 

 僕は短く一言。森の奥へ奥へと入っていった。



「ここら辺でいいかな?」

 

 しばらく走った後。

 僕は足を止める。

 

「はい、どうぞ」


「あ、ありがとうございます」

 

 僕はお姫様抱っこで抱えていた着物の少女を下ろして上げる。


「あの……ど、どなたでしょうか?」


「僕はそうだねぇー。ノーネーム。まぁ、なんだ。ただの迷子だよ」


「ま、迷子?」

 

 着物の少女を驚きの表情を浮かべ、僕の表情を覆う仮面を凝視する。


「まぁ僕の正体についてはノータッチでお願いね。仮面をつけていることで察してくれよ。それに君には君のやるべきがあるだろう?」


「……」

 

 僕の一言に着物の少女は悲痛気な表情を見せる。


「あなたは……私が誰なのか。知っているのですね?」


「うん。もちろん。罅隙。御大御天皇の娘さん?」


 罅隙ってすごい名前だよね。テストとかで名前書くの大変そう。

 

「……もう無理です……私に付き従ってくれる人は……もう残っていません。もう、何も出来ません……」

 

 罅隙の目的。それは非常に簡単で、この戦争を終わらせることだ。

 罅隙は御大護天皇の一人娘。次期天皇だ。それ相応の権限と、発言力を持つ。

 それ故に自分が抜け出し、第三勢力として自分の派閥を作り出す。三竦みの膠着状態を作り、交渉を行い、平和的な交渉で内乱を終わらせる。そんな作戦。

 だが、そんな大きな目標。ただ一人がこなせるはずもない。

 元々自分に忠誠を誓っていてくれた侍たちを説得し、彼らを駒として暗躍してその目標を達成しようとしていたのだ。

 しかし、それはもう叶わない。

 すでに彼女に付き従う侍たちは全滅した。もう彼女の手元に彼女の味方はいない。

 罅隙の心はすでに折れていた。

 

「なぁ」

 

 僕はそんな彼女に話しかける。


「もう。君の味方になってくれそうな人がいる。って言ったらどうする?」

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